秩序あるデフォルトはない

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2011年12月20日

  • 長谷川 永遠子
小国ギリシャの財政危機が欧州全体に飛び火し、この地域の見通しを暗くしている。一国が最終的に債務支払い停止に踏み切るか否かには、流動性や債務支払い能力以上に、政治状況や債務契約履行に対する国民の価値観といった定量化の難しい部分が関係している。連日報道されるギリシャのデモの様子や、財政が不安視される欧州諸国で相次ぐ政権交代は、この問題に対して欧州各国の打つ手が限られてきていることを示している。

民間金融機関を巻き込んで債務元本を半減させようとも、ギリシャにはGDPにほぼ匹敵する政府債務が残ってしまう。危機波及への安全網をいくら拡充しようとも、ギリシャ財政の構造的変化が実現しない限り、財政不安はことある度に再燃し、欧州を悩ませ続けるだろう。財政改善には歳入増加か歳出削減の2つしかなく、それらは全てギリシャ政府と国民の手にゆだねられている。

国の債務半減は認められ、民間の債務は契約通りかという疑問も残る。2001年末に起きたアルゼンチンの債務危機で、同国政府は元本の7割削減という一方的な債務交換提案を打ち出すと共に、ドルとのカレンシー・ボード制を放棄し、変動為替相場制に移行した。銀行預金は凍結された上で、ドル建て貸出は1ドル=1ペソで、ドル建て預金は1ドル=1.4ペソで強制的にペソに転じられ、これに伴う銀行の損失は新規に発行されたペソ建て国債で穴埋めされた。ペソの価値はその4ヵ月後には対ドルで6割減少したのだから、旧ドル建て債務者は債務元本の6割削減を受けたのと同じ計算になる。ギリシャへの第二次金融支援策では、通貨ユーロに手をつけずに、国債のみ元本削減を行うこととしている。国が元本削減という禁じ手を使いつつも民間債務は満額返済という図式が国内政治的に許されるものなのだろうか。

ギリシャのユーロ離脱はEUにとって政治的後退を意味し、ギリシャ国民の生活も一変しよう。しかし、そうしたショックなしに財政の構造変化を実現するのは困難だろうことも想像に難くない。高止まりしているギリシャ国債の対独スプレッドはマーケットがギリシャ財政の構造変化をまだ確信できていないことを表している。欧州が模索した「秩序あるデフォルト」には違和感を覚える。途上国の秩序ある債務再編ではリスケジュール(返済期間の延長)こそあれ、債務元本の削減には踏み込まない。債務元本削減にまで踏み込むデフォルトには混乱がつきものだが、混乱が収まれば自ずから新たな均衡が訪れるというのも、これまでの途上国の歴史が物語っている。

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