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変わる寄付文化

2011年12月15日

調査本部 主席研究員 河口 真理子

世界中に衝撃を与えた東日本大震災。われわれ日本人の価値観や行動にも大きな変化をもたらしつつあるように見える。その顕著な例が寄付やボランティアなど、利他的な行動の急増である。4月下旬にgooリサーチが行ったアンケートでは、実に8割程度の人が募金や寄付をしたと回答。前年も寄付をした経験のある人は5割なので、震災をきっかけに3割の寄付初体験者が誕生したことになる。キリスト教の伝統のある欧米と比較すると、日本には寄付の文化がなかったとされる。寄付白書2010によると、2009年に寄付をした人は約3人に1人の36.6%であった。同年の寄付総額の対GDP比は米国は1.87%、英国で0.87%に対し日本はわずか0.22%。

震災後の興奮はおさまりつつあり、寄付やボランティアのブームは一段落したが、これをきっかけに日本に本格的な寄付文化が誕生するものと期待している。その根拠として価値観の変化があげられる。(株)シタシオンジャパンが実施した意識調査(※1)によると、今後の社会生活で重要と考えることとして「他人を思いやる心」「他人との助け合い」「環境への配慮」が、8割以上の賛同をあつめ「経済成長」や「グローバル化」を抜いて上位を占めた。また、経済広報センターが震災後の5月に行った調査(※2)によると、東日本大震災をきっかけとしてボランティア活動への意識が「高まった」が24%、「ある程度高まった」が43%と全体で3分の2を占めた。さらに、ボランティア活動へ参加意向を聞いたところ、「参加したい」19%、「機会があれば参加したい」64%と、8割以上の人がボランテイア活動へ参加したいと考えていることも明らかになった。一方、ボランティア活動を通じて感じたこととして、「時間を有意義に過ごした」「活動していて楽しかった」「社会のために役に立てた」がそれぞれ91%、90%、87%と上位を占めている。

こうしたことは、利他的な価値観が人々に浸透しつつある証左ではないか。また今回初めて寄付したりボランティアに参加した人も多かったが、利他的な行動は、やってみて初めて、「自分が与えて損した」と感じるより、与えるはずの自分自身が満足や幸福を与えられたことに気がついた人も多いのではないか。

ギャラップ社の50年以上の150カ国におよぶ調査から導かれた幸福度調査(※3)によると人は自分のためより、プレゼントに金を使ったほうが、喜びが大きいという。今まで、私たちは経済成長が人生の目的で、そのために市場経済の中で競争しながら自分の利益を最大化することが最適な行動、という新古典派経済学の「教え」を信じすぎてきたのではないか。リーマンショックで、市場至上主義には疑問が呈されたが、今回の大震災をきっかけに、自らの生き方を見直す人が増えた。そして、人生で追求すべきは人々の幸せであり、そのためには寄付など従来非合理的とされてきた利他的な経済行動も重要ということを改めて認識する人が増えたのではないか。その兆しを、2011年11月に来日された「幸せの国」ブータンの国王夫妻の熱狂的な歓迎に見た。経済の仕組みに利他的な寄付文化を根付かせる日本社会にすることが、多くの犠牲になった方たちへの供養にもなるのではないか。

(※1)『震災後の社会生活に必要な価値観に関する意識調査』調査実施期間2011年9月10-12日。20-60代1万人の男女。
(※2)経済広報センター「ボランティア活動に関する意識・実態調査報告書」調査実施期間2011.7月.調査期間2011.5.19-5-30.有効回答1983人
(※3)トム・ラス/ジム・ハーター著『幸福の習慣』ディスカヴァー・トゥエンティワン(2011年)より参照

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