「国民皆保険・皆年金」から50年
2011年12月13日
2011年は「国民皆保険・皆年金」が実現してちょうど50年となる節目の年であった。今年の厚生労働白書でもこうした視点で分析されている。50年前の1961年は東京オリンピックの4年前であり、数年前にヒットした映画「三丁目の夕日」の時代背景と重なる。経済は高度成長期を迎え、工業化がすすむとともに、大都市に人口が集中し、核家族化が進行した。下表はこの50年間で社会がどのように変わったかをまとめたものである。
50年前と今

(出所:厚生労働白書平成23年版よりDIR作成)
第一に、寿命が伸びた。男性の場合66歳から80歳になった。この影響は大きい。単純化して言えば、「60歳でリタイアして、6年間の年金と資産取り崩しによる悠々自適の生活が描けた」のが、「60歳で退職後、それからの20年間どのように生活していくか見通しが立てにくくなった」。仮に毎年200万円で生活するとしても(ただし年金は考慮せず)、6年間では1200万円ですむが、20年間だと4000万円必要となるからだ。しかも高齢者ほど医療費はかかる(一人当たり年間医療費は65歳未満の平均が16万円に対し、65歳以上は67万円)。50年前に出来た皆保険・皆年金制度の手直しが必要であることはこのことからも明らかだ。仮に自営業者が多ければ、定年は心配しなくてもよいが、就業者の構成比や第一次産業従事者の減少の数字からわかるように、それも考えにくい。そうであるならば、定年延長(例えば70歳)は取りうる解決策の一つであろう(経営者は反対するかもしれないが)。
第二点は女性の社会進出である。50年前は「働く夫と専業主婦に子供が二人の4人家族」が標準的な世帯(生活単位)であった。しかし女性の高学歴化、晩婚化(未婚化)などにより、それも大きく変わってきたようだ。パート労働や派遣社員といった労働形態も増えてきた。この結果、世帯構成をみると「夫婦と子」が43%から30%へと減少し、単身世帯が5%から30%まで上昇している。単身世帯の増加した要因としては単身高齢者の増加の影響も大きいが、家族から個人へと生活単位がシフトしているためと見られる(例えば「家電から個電」「一家に1台から一人に1台」などと表現されるような現象とも相通じる)。今後は個人が基本単位となる社会保障制度への見直しが進むと予想される。
政府は社会保障と税の一体改革の素案を年内にまとめる予定で、今後議論は一段と活発化していくと思われる。その際、足元の損得勘定に関心が向きがちだが、上記のような長期の視点を見落とさないことが重要と思われる。
60歳を過ぎたらのんびり暮らしたいと考えている人は、定年延長と聞くとがっかりするかもしれない。もちろん、地方で自炊生活ができれば、お金のかからない生き方ができるだろう。あるいは、定年までに十分余裕ある資産を形成できれば、優雅な老後生活をすごせるかもしれない。それは個人の選択である。
最後に少し元気の出る話を一つ。先日2011年の公認会計士試験合格者が発表された。合格率6.4%の超難関試験だが、合格者の最高齢は64歳であったという。「もう還暦だから」とあきらめているあなた、まだまだ何かに挑戦できるのではないですか。
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