格差問題を作る格差問題
2011年12月08日
格差社会といわれる。格差は経済成長の原動力か結果か、あるいは格差の態様は経済の発展段階によって違うなど、諸説ある。ただ、格差の行き過ぎや固定化が社会を不安定にし、格差を生み出すような雇用問題が国民経済にとって不利益である点は合意されているだろう。従って、格差に対しては正しい政策対応が求められる。何が正しい政策なのかは難しいが、少なくとも社会科学の観点からの合理的な方法論に基づいたそれでなければ、説明可能性や透明性を欠いたものになる。
具体的には教育の問題や経済学の限界など様々な議論が可能だが、真っ先に重要で、かつ実行が本来は容易なこととして、一票の格差の是正がある。約25年前に憲法を勉強した際、衆院総選挙の一票の格差が3~4倍辺りで合憲か違憲かと人々が話している様子に違和感を覚えた。人間の平等を語るとき、いくらなんでも投票権が2倍を超えたらおかしいと考えるのが自然ではないのか。
ずいぶん時間を要したが、最近の衆院定数訴訟では、格差2倍が違憲ラインとなってきているようだ。ところが、2010年9月現在、衆議院小選挙区では2.35倍の格差が生じている。現在、一人別枠方式(47都道府県にまず1議席ずつ割り当て、残り253議席を人口比例で割り振る方法)の廃止などを各党が協議しており、今後の展開は政治に変化をもたらす可能性を秘めている。
他方、従来の司法判断は参議院における一票の格差に寛容である。現在の参議院の実態的・政治的な権能は衆議院に勝るとも劣らないが、参議院(選挙区)では5.03倍もの格差がある。連邦国家である米国の上院(州の代表であるため一票の格差が極めて大きい)や英国の上院(公選制が採用されていない)と同列に論じられないのは明らかだろう。参議院でも12月7日に選挙制度改革検討会が開かれ、年明けから一票の格差の是正に向けた議論が本格化する見通しになった。
一票の格差は何をもたらしているか。一例だが、下図では議員定数と公共投資の関係をみた。米国では一票の価値のばらつきが小さく、それと政府投資は無関係である。一方、日本では、公共事業予算を減らしてきた現在でさえ、一票の価値が高い地域でより多くの公共投資がなされている。他地域を犠牲にして自らが豊かになろうなどと考えている地域があるとは思えない。ここで問題としているのは地域差ではなく、日本全体としての意思決定に歪みが生じ、民主主義が国民の総意を反映しなくなるということだ。
政策決定過程の要諦である一票の平等を実現することに、時間をかけてはならない。将来を大きく左右する外交、エネルギー、税制、社会保障などの政策について、国民の本意でない政策が実行されて不幸になるのは国民である。一票の格差は、いわゆる格差問題を含めた不幸がある社会を招いている本当の格差問題ではないのか。

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