日本の対外資産・負債の少なさから期待できること

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2011年12月07日

  • 土屋 貴裕
2010年末の日本の対外純資産残高は約3.1兆ドルで、世界一を継続した。この対外純資産を、6.9兆ドルの対外資産(名目GDP比127%)と、3.8兆ドルの対外負債(同70%)に分けて考えてみたい。

対外資産の名目GDP比を国際比較してみよう。香港の1,285%や英国の649%、スイスの620%は突出しているが、世界のマネーセンターであることや、GDPの規模が小さいためだろう。この他の主要国では、ユーロ圏のフランスが264%、ドイツが258%だが、米国も140%である。スペインの129%やイタリアの119%、カナダの93%と比べれば、127%である日本の対外資産残高は極端に少ないわけではなさそうだ。

次に、対外投資のリターンを、2010年の所得収支(受取)と、2009年末と2010年末の対外資産の平均の比率とすると、日本は2.7%であった。これも、他の主要国と比べてそれほど遜色ないが、米国の3.4%、ドイツの2.9%といった他の主要国よりもやや低い水準で、過去においても日本の対外投資リターンは、主要国のなかでは下限近辺で推移してきた。

日本の対外投資のリターンの低さは、対外投資が債券中心であるためで、日本はさらに対外資産を積み上げ、殊に対外投資のリターンを高められる余地がありそうだ。対外投資の質的・量的拡大は、経常収支の一部を構成する所得収支の増加につながることになる。

中長期的に新興国主導の経済成長を予想するならば、その成長の果実はエクイティ性の投資でなければ得難いだろう。対外純債務国の米国は、エクイティ性の対外資産とドル安に伴うキャピタル・ゲインを得ており、リーマン・ショック後に再び拡大し始めた貿易赤字の半分程度は、所得収支とサービス収支の黒字でカバーできている。対外資産の質的・量的拡大は、世界経済の影響を受ける可能性を高めるとしても、90年代以降の日本の景気循環は、回復局面においては輸出主導型の成長となっており、世界経済の影響を受けるという意味では同じだろう。

一方、対外負債の名目GDP比では、資産サイドと同様、マネーセンターである香港、英国、スイスなどが突出する。フランスの274%やドイツの220%、スペインの217%などが続く。米国の157%やイタリアの144%、カナダの105%と比べると、日本の70%という値はやや小さいようだ。日本の対外純資産残高が世界一であるのは、対外負債の少なさが背景となっている。

対外負債(=対内投資)の少なさは、日本が世界経済との関与を増やす余地があることを示唆する。日本企業の海外進出による「空洞化」が懸念されるが、これまでも企業の海外進出は続いてきた。対内投資を増やす余地があれば、逆に、海外企業の日本進出が雇用の受け皿等となり得るだろう。高コストであっても、コストに見合った質の高い生産要素が揃っていれば、潜在需要や高付加価値な成長分野での収益機会を求め、海外の企業が日本へやってくるのではないか。企業の内外を問わず重要で、必要なのは人的資本等の生産要素の質を高めることや、産業再編等に伴う摩擦的失業への備え等だと考えられよう。

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