金融機関の破綻処理に関する国際的スタンダードの創設の意義

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2011年11月28日

2011年11月、システム上重要な金融機関(いわゆるSIFI)に関する対策措置がまとまった。SIFIの対策措置は、グローバルにシステム上重要な金融機関に対する、通常の金融機関に適用される資本規制を上回る上乗せ資本規制が注目されているが、同時に公表された、金融機関の破綻処理制度に関する国際的スタンダードも同じくらい重要である。

そもそも、SIFIへの対策が必要なのは、SIFIは破綻した場合に金融システムに与える悪影響が大きすぎるので、いざというときには政府が救済してくれると経営陣が期待して、過度なリスクテイクを行ってしまうこと(モラルハザード)を防止するためである。そこで、SIFIへの対策措置では、上乗せ資本規制によりSIFIが破綻する可能性を低下させる一方、金融機関の破綻処理制度を整備することによって破綻処理を可能にし、政府が救済してくれるという期待を生じさせないようにしているのである。

今回公表された国際的スタンダードは、金融機関の破綻処理に関する包括的な政策パッケージを定めており、まず、システム上重要な金融機関に対して事前に再建・破綻処理計画を備えさせ、当局がその金融機関を破綻処理することが可能かどうかを審査し、破綻処理可能性を向上させるために必要であれば金融機関の業務慣行や組織構造を変更することを求めている。実際に破綻処理を行う際には、経営権の取得や資産・負債の移転など広範な権限を当局に認めている。さらに、当局が破綻処理のために資金を提供するのは限定的な場合にのみ行い、金融機関の救済によって財政負担が拡大しないよう目指している。

2008年秋の金融危機以後、欧米を中心に金融機関が多額の損失を被ったため、各国政府は公的資金を注入して破綻処理(清算処理)を回避した。しかし、その結果、国によっては多額の財政支出が必要となり、例えば、アイルランド政府は2010年に金融機関にGDP比約20%(約320億ユーロ)にも上る公的資金を注入したため、その年の財政赤字がGDP比で約32%に急拡大した(その後、IMF・EUからの支援決定)。このような状況に対して、上記のような金融機関の破綻処理制度を整備することは、公的資金注入のための財政支出を回避し、銀行が破綻するリスクが政府に及ぶことを回避するという意義がある。

ただし、今回破綻処理制度に関する国際的スタンダードが整備されたからといって、直ちに銀行の信用リスクのソブリンリスクへの連鎖が断ち切れるわけではない。破綻処理の際の公的資金注入の回避が期待されるのは、国際的スタンダードに沿った破綻処理制度を各国が法改正によって整備して以降のことである。しかし、そのような法改正は義務付けられているわけではないし、国によっては関連法令との整合性等から困難な場合もあるだろう。

足元の動きとしては、金融機関の業務の見直しという形で影響が出てくる可能性が高い。英国ではリテール銀行からの投資銀行業務の分離(いわゆるリングフェンス)が提言されており、米国では銀行等に対する自己勘定取引やヘッジファンド投資等の禁止(いわゆるボルカー・ルール)が導入される予定である。今回の国際的スタンダードで規定された、金融機関の業務慣行や組織構造の変更の要請では、英国や米国のような制限まで求められないにしても、破綻処理の複雑さとコストを低下させることが求められるからである。
  

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執筆者紹介

金融調査部

主任研究員 金本 悠希