震災復興とリーダーシップ

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2011年11月21日

  • 森 祐司
東北地方に拠点を持つ地銀、第二地銀の2011年9月中間決算の結果を見ると、被災地の復興と経済活動の回復がずれ込む可能性が高まっているのではないかと懸念される。銀行貸出が伸びておらず、それは企業の設備投資や運転資金の需要が伸びていないことを示すと見られるためである。「貸し渋り」や「貸し剥がし」などがあれば、資金供給側の要因で貸出が伸びないことになるが、そうでないのは確かである。貸出金利回りは震災以前から下落傾向を示しており、その傾向に歯止めがかかっていない。さらに、震災復興で低利の貸出金が増えてきている。このように、価格指標である貸出金利回りが低下する一方、東北地方の銀行の預金総額は被災者に振り込まれた保険金や義援金によって逆に増加しており、銀行の負債面からの制約もない。このため、やはり銀行が資金供給を絞っているのではなく、貸出競争も激しく金利も低下しているが、資金需要がないから貸出が伸びていかないのである。

では、資金需要はなぜ伸びていないか。二重債務問題などの足かせがあることは確かであるが、やはり東北地方の経済活動の先行きに不安があることが最大の問題であろう。一般的に企業は先行きの成長経路を予想し、採算性があると判断すれば、投資を実行に移す。しかし、現状では、東北地方の企業は着実な成長経路をたどるという確信をとても持てないために、投資も手控えることになっているのではないか。

この点は非常に重要で、東北地方で現在の企業投資活動が抑制されてしまうと、経済活動全般が冷え込み、現状でも止まらない人口流出、企業流出傾向にさらに拍車をかけてしまうことになってしまうからだ。そうなると、さらに経済回復は遠のき、将来は暗くなり、さらに投資を手控える・・・といったスパイラルで、経済活動収縮が深刻化するのである。そうなると、やはり政策の出番となる。ここで必要とされる政策には、「再生と発展のビジョン」を自信を持って提示し、東北地方の企業や地域住民に希望を抱かせる効果のある内容が要求されよう。しかし、人口流出を止めて収縮経路から早期に脱出させるための「スピード」も重要となってくる。経済や社会の発展は、一旦転落するとそこから再び元の成長経路に戻ることに多大な時間とコストがかかるという「歴史的経路依存性」という性質を持っている。このため、危機からの早期の脱出が非常に重要になってくるのである。その「スピード」の裏づけとなるのは、強力なリーダーシップと推進体制であろう。平時であれば、不平等を避けるために全国画一的な制度とのバランスを考えて多くの議論を重ね、少数意見にも真摯に向き合い、関係各方面に配慮した上で慎重に決断する、といったことは確かに重要かもしれない。しかし、歴史的岐路に立つ重大局面の場合には、転落の危機から一刻も早く脱け出すための政策推進が重要で、その実現には強力なリーダーシップが不可欠なのである。慎重さがかえって足かせとなり、時間を浪費することで転落していくなら、全責任をとりスピーディな決断と実行力で方向転換させていくことが危機時のリーダーに要求される資質なのではないだろうか。

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