O社事件に思う、会計操作とガバナンス
2011年11月10日
ここのところ、コラムの記事として会計問題を取り上げるケースが続いていたので、今回は別のテーマを取り上げようと考えていたところ、O社の事件が起こってしまった。
当初、この問題はガバナンスの問題として報道されていたところであるが、ここに来て、会計操作の問題として報道されている。
会計操作は、計上金額を操作する、計上時期を操作する、計上そのものを操作する(取引や資産が無かった・無いことにする、あるいは逆にあった・あることにする)、のいずれかの方法で行なわれることが多いものと思われる。
報道によれば、今回の件は、時価会計導入により含み損が明らかになることを回避するために、ファンドに保有有価証券を簿価で移転したとのことであり、三番目の方法がとられたことになる。
しかし、資産をSPCやファンド(以下「SPC等」)に移転し、開示企業からオフバランス化したとしても、SPCやファンドが開示企業の連結対象になれば、連結財務諸表には含み損が反映されることになる。
2011年5月に公表されたIFRS10号「連結財務諸表」では、株式会社に限らず、SPC等であっても、これらを支配している場合は連結対象とすることとしている。開示企業が対象企業等に対する「パワー」を有しており、対象企業等からの「リターン」を享受(あるいはロスを負担)し、「パワー」が「リターン」に影響を与えていれば支配していることになる。その判断に当っては、対象企業等の目的、設計、活動内容、活動の決定方法、開示企業の権利に実態があるか・十分か、代理人(アセット・マネージャーやファンド・マネージャーを含む)の権限・役割などを検討して判断することとしている。SPC等が連結対象でない場合についても、IFRS12号「他の事業体に対する持分の開示」により、SPC等に移転した資産の簿価、持分に関連する最大損失見込額や提供したサポートの内容などを注記で開示するよう求められる。
もっとも、わが国の会計ルールでも、流動化目的以外のSPCや、ベンチャー・キャピタル以外のファンドを実質的に支配している場合は連結対象とすることとしている。
O社の事件では、含み損のある多額の有価証券を簿価(即ち含み損を抱えたまま)でファンドに移転したと報じられることから判断すれば、移転先のファンドを実質的に支配していた可能性が高いと思われる。連結はされていない模様であり、わが国の会計ルール上連結されない理由はわからないが、もし仮にルールに不備があるとすれば、改める必要がある。SPCやファンドも含めた連結については、IFRSとのコンバージェンスを目指してASBJ(企業会計基準委員会)で検討していたが、IFRS導入に関する当局発言や企業会計審議会での議論の影響 等を受けて、検討は停滞している。O社事件により、海外の視線は厳しくなっており、わが国企業がいわれのない疑念をいだかれることがないよう、連結問題に関する早急な検討が望まれるところである。
他方で、会計ルールが整備されても、経営者がそれを遵守しなければ、あるいは経営者に対するチェック機能が働かなければ、せっかくのルールも絵に描いた餅となる。O社の事件に関しては、この点、下記のような疑問がある。
- 時価会計導入の当時、既に注記による有価証券やデリバティブの時価情報の開示は行われていたはずであり、当該注記は監査の対象であった。また、有価証券の価格が著しく下落した場合の評価減が強制されていた。これらにより損失が明らかにならなかったのはなぜか?
- そもそも、簿価で有価証券を移転することは妥当な会計処理とは言えないが、多額の有価証券が移転されたと報道されているにもかかわらず、当時の監査法人の監査でなぜ見逃されたのか?
- 社外取締役や社外監査役がいながら、なぜ機能しなかったのか?例えば、M&Aに対する報酬の水準について、誰も指摘しなかったのか?
- 監査法人が見抜けなかった会計操作を、第三者委員会が1週間程度で発見できたのはなぜか?。
最後の第三者委員会が短期間で会計操作を発見できた点に関しては、おそらく必要な情報の提供を受けたことによるものと思われる。今回報じられているように経営のトップと常勤監査役がルールからの逸脱に関与したとすれば、そのような場合は、ガバナンスの体制を形だけ整えても、なかなか対応が難しいのかもしれない。会社法の改正が議論される中、あらたな課題をつきつけた事件であるといえよう。
(※1)「会計基準の見直し、国内基準も停滞」(2011.10.3 吉井 一洋)
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