失敗の本質

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2011年10月27日

  • 木村 浩一
太平洋戦争における日本軍の敗北を研究した名著「失敗の本質」(1984年刊、防衛大学校研究者ら6名による共著)によると、日本軍の過去の成功体験に基づく戦況判断の甘さと、状況判断の甘さに起因する戦力の一挙投入ではなく逐次投入が、対連合国軍に対する日本軍の作戦の失敗の一因であったと分析している。

バブル崩壊後の日本の金融機関の不良債権処理をみると、金融機関の経営陣、行政当局による、再び地価は上昇するという甘い判断に基づく不良債権額の過小評価、不良債権問題の深刻さの否定、先送り処理が行われ、公的資金の投入は小出しになされた。対策は後手後手になり、対応期間の長期化が日本経済の傷口を拡げ、最終的に不良債権額は100兆円を超えた。初動対応のまずさが、金融不況を長引かせ、「日本の失われた10年」の原因となった。

日本の金融機関の不良債権問題は、2002年に小泉内閣の竹中金融担当大臣が下した、主要行の不良債権比率を2年半で半減させるという金融再生プログラムの実施によってようやく解決した。リーマン・ショック、ギリシャ・ショックと相次ぐ金融危機の中で、邦銀が相対的に安全性を保っているのは、この時の不退転の政治決断によっている。

ギリシャ問題に端を発するユーロ危機も、日本軍の失敗と日本の銀行の不良債権処理と同じ軌跡を描いている。ギリシャの政府債務危機へのヨーロッパの対応は、危機の実態を認めない状況判断の甘さと、小出しの対応、資金の逐次投入(1年半の間に6回にわたる対ギリシャ融資)に終始し、また、2010年と2011年に実施されたヨーロッパの大手行に対するストレス・テストは、市場からの信頼は得られなかった。最近の欧米の主要行のトップによる公的資金投入に対する拒否反応は、1990年代後半以降の邦銀トップの発言を思い出させる。

ユーロ危機を長期化させないためには、金融機関の抵抗を押し切る強い政治決断と、見せ金の大きさではない実弾となる大量の公的資金の投入(戦力の一挙投入)が必要だろう。公的資金を大量に強制投入しなければ、銀行は自己資本比率規制を守るため、貸出抑制、資金の引上げを行う。この先には、低成長、デフレ、国家と銀行のスパイラル的な格付低下、に陥った「日本の失われた10年」が待っている。

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