さまよえる郵政

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2011年10月24日

  • 島津 洋隆
「郵政民営化」は小泉政権(2001年4月~2006年9月)において、「改革の本丸」といわれた主要政策であった。その概要は、郵政事業を郵貯、簡保、郵便・物流、窓口会社の4つの会社に分社化し、その4つの会社の持株会社(日本郵政株式会社)が設立されるとともに、各会社が「民営化」することである。また、その目的は、郵政資金の「出口」にあたる特殊法人とその資金の「入口」である郵政事業と、その「出口」と「入口」の間の資金の流れを取り持つ財政投融資制度を改革することと、その資金の流れを「官から民」へと変え、郵政資金を効率的・効果的に活用することにあるといわれている。

では、「郵政民営化」の本質とは何であったのだろうか。筆者は「小さな政府」についての国民への問題提起であったのではないかと考える。つまり、小泉純一郎元総理が在任中「民間でできることは民間に」ということを主張し続けてきたように、国(政府)のなすべき最低限の仕事について国民に問い続けてきたのではないかと考える。2005年9月の総選挙(いわゆる「郵政選挙」)の結果、こうした考えが国民に受け入れられ、同年10月に郵政民営化関連法が成立した。この法律に基づき、民営化の作業はおおよそ順調に進捗していた。

だが、2009年9月の民主党、社民党、国民新党の連立政権の発足に伴い、「日本郵政株式会社、郵便貯金銀行及び郵便保険会社の株式の処分の停止等に関する法律」(平成21年12月11日法律第100号)が成立したことにより、郵政関連会社の株式売却ができなくなり、郵政事業の「民営化」は凍結されることとなった。また、政府・与党は「郵政改革法案」を策定し、現在も継続審議中である。因みに、この法案の問題点として、郵政事業の一体的経営が維持されることにより、金融リスクをその他の事業から遮断することができない可能性があるということに加え、全事業にわたり国の関与が続くため、民間とのイコールフッティングが確保されないということが挙げられている。更に、国際的にも郵政事業の一体的経営が不公正であると批判されている。また、政府が交渉に参加しようとしているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)と「郵政改革法案」とが矛盾する関係になるおそれもあるともいわれている。

最近、郵政株の行方が注目されるようになりつつある。その背景には、東日本大震災の復興財源を調達するために郵政株を売却することが閣議で決定されたことにある(「平成23年度第3次補正予算及び復興財源の基本的方針」 平成23年10月7日)。「郵政民営化法」から「郵政改革法案」に切り替えるということは、郵政の経営の根幹を大きく変えることにも繋がる。仮に郵政事業に関する理念や戦略もないままに、財源調達のみを目的として急いで郵政株の売却を行おうとすれば、売却益が想定を超えることは難しくなり、十分な復興資金を調達できない可能性も考えられる。また、郵政事業の将来性を損なう可能性も考えられよう。このところの郵政株売却を中心とした「郵政改革」の動きをみていると、郵政がさまよい続けているようにみえる。

(注)因みに筆者は2005年から2007年にかけて内閣官房郵政民営化推進室に在籍し、郵政民営化関連法の策定や企画・立案、骨格経営試算(郵政民営化会社のシミュレーション)に携わった。
(参考文献)
○“Postal privatization retreat assailed by finance sector”(Japan times April 15,2010)
○「郵政改革試案-国民ニーズに合致した郵政サービスへ-」(2010年3月東京財団政策研究部)
○「小泉純一郎です。」(2006年10月、社団法人時事画報社)

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