米国クラウドコンピューティングの成熟によって生まれた商流の変化

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2011年10月19日

  • 大嶽 怜
米国のIT業界では、依然としてクラウドコンピューティングの注目度が高く、展示会や雑誌などで多くの広告を目にする。そのような中で、最近この分野の先進企業の広告に、クラウド関連の用語が出てこないことがしばしばあり戸惑う。これがクラウド関連のサービスなのか、直接担当者に話を聞くまで確証がもてないこともある。代わって広告の前面に出ているのは、わずか数日で高度な業務システムが利用できるといった業務面のメリットである。一時期、クラウドと言う流行り言葉に乗じて、多くの企業が自社のサービスをクラウドと名づけ、市場にクラウドという言葉があふれた。このためクラウドコンピューティングの定義とは何かといった、実務とは離れた議論が一人歩きし、この言葉はしばしば実態の無いバズワードと言われた。現在の、誰でも簡単にITサービスを利用できると言った、クラウド本来の利点にフォーカスした広告の増加には、この分野が成熟してきたことを感じさせられる。一方でこの現象は、業務部門がシステム部門を抜きに直接サービスを選べると言うクラウドの一面に、製品提供側が注目し始めたことの表れでもあるようにも思える。

このような傾向は、サービス購入側のシステム部門にも見られる。先日ニューヨークで開かれたIT系カンファレンスでは、業務部門がクリック一つでシステムを導入できるようになれば、システム部門の存在意義が問われるのではという問題提起がなされた。これまでも一部で同様の議論はあったが、システム管理手法などの技術寄りの話題が多いシステム部門向けカンファレンスで、このような議論がなされたのは興味深い。

これらの出来事は、システム部門を通すことを前提とした従来のIT購入の流れの変化を感じさせる。このような商流の変化のなかで、システムが使われる業務をどれだけ知っているかが販売側企業の生き残りの鍵となる、との声を多く聞く。

米国ではニューヨーク証券取引所が金融のプロとして、金融機関を主なターゲットとしたクラウドビジネスを始め話題を集めた。また、大手通信企業などこれまでシステム提供を主業務としていない企業が、クラウド業界で存在感を増している。業務を知っていると言う意味では、日本にも世界に誇れる企業が多くある。これらの企業にも、クラウドビジネスで成功するチャンスがあるのではないだろうか。既に自動車などの分野では、日本企業のクラウドビジネス参入に向けた業務提携も見られ始めている。今後この流れがより活発化し、世界のIT業界の勢力図を塗り替えることになれば面白い。

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