SECの新密告者保護・報酬付与プログラム、8月12日に発効

違法取引密告者を助け、報酬を得ようとする者を支援するウェブサイトがスタート

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2011年09月30日

  • 吉川 満
「新規に定めた密告者保護・報酬付与プログラムが本日正式に発効し、SECは同時に連邦証券諸法違反を報告し、報酬金を得ようとする人々の為の新たなウェブページをスタートさせました。

ドッド・フランクの両議員の主導で成立したウォール街改革及び消費者保護法はSECに、証券諸法違反に関して新たにタイムリーな情報を提供した密告者に対して、金銭的報酬を付与する権限を与えました。密告者の情報が報酬を受ける為には、取り分け100万ドル以上の金融制裁を伴う執行行為を発動させる事に成功しなければなりません。」(※)

8月12日に発出された、「SECの新密告者保護・報酬付与プログラム、本日発効」(※)と題するSECのニュースリリースは、このように始まっています。ここにも書かれている通り、SECは8月12日に、密告者保護・報酬付与プログラムを発効させると同時に、消費者の為に密告者保護・報酬付与プログラムの内容を解説したウェブサイトをも開設したのです。開設されたウェブサイトは、密告者保護・報酬付与プログラムに関して、更に次の様な説明を加えています。

SECの新設のウェブページには、報酬金を受け取るための要件に関する情報、示唆ないしは不平・不満の提出方法、報酬金の申請方法、及びしばしば寄せられる質問に対する回答、などが含まれています。」(※)

「早急で迅速な法律の執行行為は、証券詐欺行為を防止し、投資家の損失を回避する上で鍵となるものです。かつ密告者保護・報酬付与プログラムは、我々に対してこの目的を達成する為に必要な手段を与えてくれます。」(※)SECの執行部門の、ロバート・クザミ部長がそう述べています。

新設されたSECの密告者保護報酬部のトップのショーン・マッケシ-氏は次の様に付け加えています。

「証券詐欺は、被害者の無い犯罪ではありません。(筆者注:証券詐欺には被害者がいる、という事を述べているのです。)人が進行中の証券詐欺を目撃したり、もしくは、起こってしまった証券詐欺や、起ころうとしている証券詐欺について知った場合には、名乗り出る事が重要なのはその為です。SECが新設した、密告者保護・報酬付与プログラムは人がこのステップを実行する事を容易にしています。」(※)具体的には、次の五つのポイントが挙げられています。以下では各ポイント毎に個別に眺めていく事にしましょう。

第一点目は「示唆情報の改善:SECは議会が密告者保護・報酬付与プログラムを創設して以来、過去数ヶ月間に亘って、個人から受け取った、証券犯罪を示唆する情報の質が高まって来た事を目撃してきました。」(※)というものです。従業員に密告情報を提供させるという発想は、日本では抵抗があるかもしれません。しかし、消費者を保護する為には、従業員も協力すべきだと考える米国からすれば、密告情報が認められるのは、当然の事なのです。確かに考えてみれば、企業の内部的な利益よりも消費者の利益を優先すべき事は当然なのですから、密告情報を認めない理由は無いとも考えられます。米国で密告情報の採用の慣行が進んでいけば、実際問題として日本でも密告者情報に対して報酬を付与するかどうか、 真剣に検討すべきタイミングが近づいているのかもしれません。

第二点目は、「タイムリーな情報:潜在的な密告者は、いまだSECが知らないタイムリーな情報を携えて、遅くなるよりもむしろ早いうちに、名乗り出る事が奨励されています。」(※)というものです。違反行為が企業により行なわれたり、行なわれつつある事を知っている潜在的な密告者は、消費者保護のために迅速な密告を奨励されているという訳です。密告が奨励されているとまではっきり書く事は、このままではわが国では受け入れ難い面があるかもしれません。しかし、先にも述べた通り消費者利益優先の発想からは、当然の結論とも考えられるのです。次の第三点目はその点を説明したものとも言えます。

第三点目は、「外部からの資源を最大化する。:SECは4000人以下の従業員で、35000以上の法人を規制しなければならない情況にあるので、何時でも何処にでもいるという訳にはいきません。SECは強固な密告者プログラムを以てすれば、他の方法では発見できなかったかも知れない不正行為を見つけ、防ぐ事ができる可能性が高いと考えられます。」(※)という訳です。SECが少人数でハードワークをこなしているという事は、金融危機以来、しばしば指摘されている所です。少人数で最大限の規制の効果を上げる為にも、密告者情報の利用が考えられる訳です。

第四点目は、「報復行為に対する新たな防御:不正行為を目撃したと名乗り出た従業員は、雇用者の報復から自らを防御する手段が付与されます。」(※)と言うものです。密告情報を提供した従業員には雇用者の報復行為からの保護が与えられるという訳です。雇用者には、解雇を始めとする様々な報復手段が考えられますから、報復措置に対する防御措置が十分でないと密告者保護報酬制度も、十分なものにならないと考えられます。

第五点目は、「内部的なコンプライアンスの強化:新規則は、SECに届け出る前に、会社の内部コンプライアンス部門に対して、たとえどんなものでも不正行為を報告しようとする従業員に対して、重要なインセンティブを提供します。それゆえ、従業員がまずは内部的に報告を行なう方が好ましいと考える会社に対しては、信頼できる効果的なコンプライアンス・プログラムを 用意しておく事が奨励されています。」(※)という訳です。一々SEC に訴えていたのではSECに作業が集中して非効率とも考えられるので、内部のコンプライアンス部門を通じて、効率的な処理ができる様定めておく事も必要と考えられる訳です。実際問題としては、コンプライアンス部門を通じて訴えても、密告者が直接SECに訴えたのと同様の結果が得られる事を保証しなければ、制度が実効的なものとはなりません。

以上の五つのポイントは、密告者保護・報酬付与制度を導入する以上、是非とも考えておかなければならないポイントを的確に捉えているように思います。こうした検討をきちんと行なった上で、新制度がきちんと機能するかどうか、しっかり見極めていって欲しいと思います。

最後になりますが、ニュースリリースは更に二つの情報を明らかにしています。その第一は、「SECがドッド・フランク法の密告者保護・報酬付与プログラムを実行する為に、最終規則を採択したのは、5月25日でした。密告者保護・報酬付与プログラムの下での報酬付与が検討される事を望む個人は、オンラインで質問に答えるか、もしくは新規に認可された書式TCRを提出する事が要求されます。」(※)というものです。オンライン手続きと、従来からの書式郵送手続きの双方が用意され、消費者にとって利用しやすい制度となるよう配慮されています。

第二点目は、「ドッド・フランク法の施行以前は、SECはインサイダー取引の場合に限ってのみ密告者に対して報酬を与える権限が認められていました。」(※)という事実を紹介しています。ここで念が押されている通り、密告者保護・報酬付与制度は確実に拡大しているのです。

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