欧米諸国のソブリン危機と軍事大国中国の台頭

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2011年09月15日

  • 木村 浩一
リーマン・ショックによる金融危機とその後の景気悪化への対応のため、先進各国で金融機関の救済と大規模な財政出動が実施された。そのため西側諸国では国家債務が急増し、金融危機がソブリン危機に変形しているのが、リーマン・ショック3年目の現状である。そして、ヨーロッパの金融機関は欧州各国に対する大量の債権を保有するため、ソブリン・ショックは直ちに金融危機に転化する。バランス・シート調整により景気低迷が長期化する見込みの中で、金融危機と財政危機が悪循環に陥り、両者が連綿と続いていくおそれがある。

大量に財政資金が投入され金融機関は救済されたが、実際に救済されたのは、銀行の株主、高給取りの社員、銀行の債権者、本来預金保険ではカバーされない大口預金者などで、社会的な強者、富裕層が救済される結果となり、一方、緊縮財政により予算の大幅なカットが行われ、失業者や貧困層への予算が大幅に削減された。強者は救済され、弱者は富裕層救済のつけを負わされたというのが、失業者たちの偽らざる感情だろう。

バブル崩壊後のバランス・シート調整により、潜在成長率の低下、景気低迷の長期化が起きるというのが「失われた20年」の日本の教訓だが、景気の不振は低金利と株安を長期化させる。低金利と株安は、年金の運用難に直結する。今後社会の高齢化が急速に進む先進各国にとって、年金の運用難は長期に及ぶ深刻な問題で、年金原資への国民負担の拡大か年金支給額の減少が予想される中では、ますます個人消費は萎縮してしまう。特に、アメリカは、年金資産18.1兆ドル(2011年3月末)の内、加入者が自ら運用し、リアルタイムで残高、パフォーマンスがわかる401(k)やIRAでその半分以上の9.6兆ドルを占めており、年金の運用難はアメリカの個人消費にも影響を及ぼすだろう。

リーマン・ショックは金融危機、財政危機を引き起こしただけでなく、軍事大国中国が台頭している中で、西側諸国の安全保障にも波及する。

アメリカは、厳しい財政事情の中で、今後軍事予算の大幅な削減が必至である。一方で、中国の軍事予算は大幅に増加しており、長期的にみて軍事バランスが変わる可能性がある。

また、現在のドル安、ユーロ安、株安は、軍事製品の輸入や西側諸国の先端技術、軍事技術をもつ企業の買収を容易なものとする。特に、ヨーロッパでソブリン・リスクが深刻化した場合に、中国の経済面だけでなく政治的なバーゲニング・パワーは強力なものとなろう。

西側各国は、貧富の格差拡大による内なる分裂と再統合、安全保障の見直し、という内外の体制の再構築を迫られることになるだろう。

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