我が国企業における業績連動報酬
2011年09月05日
株式会社において、取締役を中心としたマネジメントの主たる役割のひとつは、株主のエージェントとして、企業業績や企業価値を継続的に向上させることである。株主とマネジメントの利害を一致させる仕組みとして、役員賞与やストック・オプションといった業績連動役員報酬制度が上場企業の間に広く普及していることは周知の通りだ。
業績連動型役員報酬については、株主などの関心も高く、株主総会議案においても定番化しているうえ、リーマン・ショック以降、特に注目されるようになった。これらを背景に、我が国においては2010年2月に金融商品取引法(金商法)にかかる内閣府令が改正され、役員報酬の情報開示が強化された。具体的には、1億円以上の役員報酬を得ている役員の役職、報酬、氏名が個別に開示される(個別開示)こととなったほか、役員報酬の総額(総額開示)が、有価証券報告書の「コーポレート・ガバナンスの状況等」の項において、開示されるようになっている。
下のグラフは、TOPIXCore30構成銘柄(金融持株会社を除く26社)を対象に、過去5期間の業績と、役員報酬(総額および、取締役・執行役報酬総額)を集計してプロットしたものだ。このグラフを見ると、売上高を中心とした企業業績と役員報酬総額が概ね連動しており、取締役賞与やストック・オプションなどの制度が実態的にもある程度の役割を果たし、業績向上に向けた役員のインセンティブ形成のために機能していることがうかがえる。株主の立場からすれば、マネジメントとの利害が一致するこのような制度の導入は望ましいものといえるだろう。

(出所)Bloomberg、各社有価証券報告書より大和総研環境・CSR調査部作成
一方、業績連動報酬を株価連動報酬に履き違えた行き過ぎにより、経営者が過度に功利主義的な経営に走ったことが今般の金融混乱を招いたとの指摘もある。企業においては、報酬制度全般を適正に運営することは勿論だが、制度設計のスタンスを明確化させ、開示内容の更なる充実を図るなど、積極的に説明責任を果たそうとする姿勢が求められよう。
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