米国の住宅金融市場改革

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2011年08月30日

  • 奥谷 貴彦
毎年夏と冬にニューヨークでは、市観光局が運営するレストラン・ウィークというイベントが話題となる。普段は5000円から1万円前後のコース料理を提供しているレストランがイベントに参加し、参加する全てのレストランが3000円ほどのコース料理を提供する。高級レストランはブランド価値を保つため、値引きを避けたい。しかし、普段の価格では新しいレストランへの挑戦に二の足を踏む新規顧客も開拓したい。市観光局に協力するという名目でレストラン・ウィーク用の割引メニューを導入すればブランド価値を落とさずに新規顧客にアプローチでき、有効なマーケティング・ツールとなっている。外食産業はニューヨークにおいて雇用市場を支える重要な産業の1つであり、都市の競争力を形成する大きな要素でもある。行政にとっても利点は大きい。

世界でレストランの格付けを行う企業によると、ニューヨークでは5つのレストランが最高位の3つ星を獲得しており、日本の京都や東京にも勝るとも劣らない水準の外食産業が発展している。最近何かと話題の格付けであるが、いくつかのニューヨークのレストランは厳しい審査基準を通過し、世界でも最高水準の格付けを維持できているようだ。

一方、米国全体を見てみると未だに本格的な景気回復に至っていない。失業率は高い水準で推移しており、住宅価格の低迷も続いている。特に米住宅市場については住宅金融の再構築が早急に求められている。

金融危機以前の住宅バブルにおいては、連邦政府の信用を裏付けにした政府後援企業(GSE)が住宅ローンを保証し、自ら住宅ローンの証券化商品を購入したことで、住宅ローンの供給が促進された。投資家はGSEが発行する債券や不動産担保証券(MBS)を購入し、GSE債やMBS市場の育成にもつながった。住宅価格が安定的に上昇した背景には、世界の投資家が連邦政府の信用力を裏付けにしたGSEに資金を供給したことが挙げられる。

しかしながら、住宅バブルが崩壊し、住宅価格が下落に転じるとGSEは資金調達が困難となり、破たんの危機に直面した。GSE破たんの経済に与える影響が甚大であることから公的資金が注入され、現在は政府の公的管理下におかれている。

住宅政策や金融市場への影響を考えると、GSEの必要な機能は当面維持する必要がある。一方で新しい住宅金融システムの構築を早急に進める必要もある。米国の個人金融資産は長期性資金の投資の割合が、住宅ローンの貸付などに利用される短期性資金の預金よりも多い。住宅ローンの需要に対する資金不足を解消するためには、住宅ローンの証券化と証券化商品への投資が必要である。住宅ローンを証券化する体制を再構築する意味合いは大きい。住宅金融は基本的に民間が主体となるべきであるが、金融危機下における安全弁としての政府支援も必要だ。GSE改革は今後の日本でのMBS市場や公的金融のあり方を巡る議論の参考となるだろう。

欧州大陸諸国や日本と比較すると米国は小さな政府を志向し、民間企業への政府支援を嫌う傾向があると言える。しかし、市観光局のレストラン・ウィークを楽しむ1人の市民からの視点では行政による民間企業の支援も時に有意義であると感じている。

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