消費者金融保護庁の長官指名により、米国における消費者保護が大きく前進
2011年08月26日
上院銀行委員会のティム・ジョンソン委員長は7月17日、消費者金融保護庁の長官へのリチャード・コードレイ氏の指名を確認し、米国経済と、中間層を強化するという目標に向けて、大きな一歩を踏み出しました。
既にオバマ大統領が、リチャード・コードレイ氏を指名していましたが、上院銀行委員会は同氏の指名を確認したのです。金融危機を創出し、大恐慌以来最悪のリセッションの一因となった諸問題と戦うための金融規制改革法案を議会で通過させてから、一年間が経過しました。大統領が18日に述べた通り、この法律は三つの事を実現したのです。第一に、納税者の拠出による金融救済は違法と定めました。それゆえ納税者は、大銀行が破綻しても、法律の根拠に基づいた特定の救済措置を行なう必要はなくなったのです。第二に、ウォール街の金融会社に対して、金融危機をもたらしたのと同種の向こう見ずなリスクをとってはならないとのメッセージを発しました。そして第三に、史上最強の消費者保護を実践したのです。
金融改革の一環として、オバマ大統領は消費者保護者としての長官に対して、「金融システムにおける普通の人々」を保護するように義務付けました。この考え方を大統領は、大統領特別補佐官のエリザベス・ウォーレン氏から学んだのです。
オバマ大統領とガイトナー財務長官は当初はエリザベス・ウォーレン氏が消費者金融保護庁の長官を務めればよいと考えていたようですが、金融界や共和党からの反対が強く、それに代わって白羽の矢が立ったのがリチャード・コードレイ氏だったのです。エリザベス・ウォーレン氏が何故、反対が強かったのか、明確に理由を述べている人は必ずしもいないのですが、ウォーレン氏はハーバード・ロー・スクールの破産法と契約法の教授であり、議会監督局の議長を務めた事もあることから、消費者保護に力を尽くす点では定評があるのですが、その分、金融会社に対しては厳しい面があると考えられているためだと思われます。実際、彼女に理路整然と論破されてしまった実務家もあるようです。こうした事から、エリザベス・ウォーレン氏ではなく、同氏の推薦する人物に消費者金融保護庁長官を務めさせようという事になったのでしょう。オバマ大統領はリチャード・コードレイ氏に関して次の様に述べています。
「リチャードは、エリザベスが(筆者注:消費者金融保護庁のスタッフとして)最初に雇用した人物のうちの一人です。過去六ヶ月の間、彼は同庁の執行部門の立ち上げの支援に比類ない実績を上げてきました。既に消費者金融保護庁は消費者にとって重要な、一連の業務を開始しました。契約文言とクレジット・カードの条件がより簡単で、簡易な英語で書かれていることを確認しました。既に同庁のリーダーシップの御蔭で、我々は軍隊勤務の男女が、金融慣行に関しては詐欺行為やインチキ行為から、より厳格な保護を受けている事を目撃しております。私はまた、彼女の任務の一つとして、消費者金融保護庁の長官に可能な限り最善の人材を選択するよう依頼しておきました。」(※)
「私は、彼が奥さんと12歳になる双子をオハイオ州に残して、この任務を引き受けた事を指摘しておきたいと思います。彼は同庁の使命に深く賛同しているからなのです。それに先立つ期間は、オハイオ州の検事総長として、リチャードは受給者のために、ペンション・ファンド資金の何十億ドルもの回収に成果を挙げ、無法な貸付慣行に対する同州の取り締まり強化にも成果を挙げました。」(※)
このようにオハイオ州の検事総長と言う前職からしても、リチャード・コードレイ氏は十分に消費者保護の役割が期待できますし、何よりも消費者金融保護庁担当の大統領補佐官として組織立ち上げを指導したエリザベス・ウォーレン氏を直接補佐して来たのですから、政策の連続性の面でも問題が無いと思われます。
また、オバマ大統領は「彼は、オハイオ州の財務官の任にあったとき、民主党から共和党まで、かつ銀行から、消費者団体まで広く友好な関係を築きました。」(※)と述べていたのは、エリザベス・ウォーレン氏が学者というイメージが強く、政治家や実務家からの反対が根強い事から、そうした心配はいらないと予め念を押したものと考えられます。オバマ大統領は続いて、リチャード・コードレイ氏がJEOPARDYというテレビのクイズ番組に出場した事があることもエピソードとして紹介しています。リチャード・コードレイ氏が親しまれるよう、ことの他、気遣っているようです。こうしてリチャード・コードレイ氏という人材を得て、消費者金融保護庁は、いよいよ本格的に稼動する事になりました。一部には無事、指名が完了するかどうか懸念する人もあった様ですが、アンフェアな慣行が許される事に対しては、反感が強いのは米国社会の特徴でもあります。
消費者金融保護庁の初代長官として、リチャード・コードレイ氏がぜひとも大きな成果を挙げるよう、筆者も見守って行きたいと思います。
オバマ大統領は、ここで(共和党支援の )ロビイストと弁護士が消費者保護を弱め、進展をさせなくするために今年使った何千万ドルに上る資金の事を、話題にしました。
「金融危機と景気後退は通常の景気循環の結果とか、単なる不運の結果ではないのです。濫用行為がありましたし、賢明な規制は存在しなかったのです。それゆえ、我々は、単に肩をすくめて、二度と起こらないことを望んで済ませるという訳にはいきません。我々は消費者が自分達に相応しい保護を得る事が期待できない情況に後退することはできないのです。我々は米国経済全体が、大規模な金融危機に対してぜい弱だった状態にまで後退してはならないのです。金融改革が重要なのはそのためです。消費者金融保護庁が重要なのはそのためです。私は、我々が議会を通過させた重要な改正を撤回したり、その基礎を損なったりする行為には反対します。かつ我々は消費者金融保護庁を立ち上げ、国中の中流階級の家庭の為に的確な事を行なう事を、確かなものとしていきたいと思います。」(※)
「中流階級の家庭と高齢者は、一流の法律会社が構成する弁護士チームは持っていません。彼等は、自分達の利益を監視するロビイストを雇うことはできません。けれども、中流階級の人々も正直な扱いを受ける権利は持っているのです。中流階級の人々も、濫用に対する基礎的な手段で保護するには値するのです。彼等はモーゲージ契約の署名を行なう書類に目を通したり、クレジット・カードを入手したりする為には、自ら企業弁護士である必要はないのです。彼等は十分な情報に基づいて、自由に住宅を購入したり、クレジット・カードの口座を開いたり、学生ローンを借りたりする決断ができ、同時に自分達は騙されていないと確信できなければならないのです。そしてこれこそが、消費者金融保護庁の達成すべき目標なのです。」(※)
(※)ホワイトハウスホームページ(2011年7月18日ブログ)
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。