ギリシャ問題と日本

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2011年08月18日

  • 小林 卓典
2009年末にギリシャの財政収支の粉飾疑惑が取り沙汰され、やがてユーロ圏を揺るがす問題へ発展すると、巨額の公的債務を抱える日本にとって、ギリシャ問題は対岸の火ではないという意見が少なからずあった(日本とギリシャは財政悪化の原因が全く異なるにもかかわらず)。その後、ギリシャはECB、IMFの支援を受けつつ厳しい緊縮財政に取り組んだが、財政赤字の削減目標を達成することはできず、結局、第二次支援を仰ぐことになった。

ここから得られた教訓は、景気が停滞しかつ為替レートが十分に下落できない中で緊縮財政を行うと、景気はさらに悪化し、財政赤字を減らすことが困難になるというごく当たり前のことであった。ギリシャには気の毒だが、日本が参考にすべき経験的な事実を与えてくれた。

日本経済の状況は、サプライチェーンの早期復元により7-9月期からプラス成長に戻ることが濃厚だが、外部環境は新興国の金融引締め、欧州の財政問題、米国景気の変調と、世界経済の成長鈍化をもたらす要因が増えつつある。加えて日本は強い円高圧力と電力不足という難問に直面し、どうみても安閑としていられない状況にある。一方、大震災に見舞われた東日本の復興政策の具体化は遅れており、国債発行か増税かという財源を巡る議論に決着はついていない。

日本経済が外部環境の悪化に対してとても脆弱であることは、過去の景気後退の経験が示す通りである。急ぐべきは東日本の復興、そのための復興政策の具体化だが、その際、財源として増税を急がないことが好ましい。海外経済の不安定化と異常な円高という組み合わせは、日本経済の回復に強い逆風であり、その中で増税を行うのはかなり冒険的な試みのように思えるからである。

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