茶道具の目利きと金融資産の格付にみる共通性
2011年08月16日
骨董品の真贋や価値を鑑定(目利き)するテレビ番組がある。日本の歴史においても茶道具等の美術品の目利きが盛んに行われていた。例えば、室町時代中期における東山御物で有名な足利義政のお抱えの能阿弥から始まり、安土桃山時代の千利休、江戸時代初期の松平不昧公が目利きの代表格だとされている。現在では、茶道具の目利きは古美術商を営む鑑定家の情報交換で凡その価格が決まると、筆者は旧知の古美術商から聞いている。
安土桃山時代に、信長や秀吉などの権力者は部下に茶道を勧めただけでなく、戦功の恩賞として茶道具を与えることにより、茶道のステータスが一気に高まり、それに伴い茶道具の価値も高騰した。そうした中で、千利休(以下、利休)は、信長や秀吉の庇護を受けたことに加え、正親町天皇への献茶により「天下一の茶人」として一層の権威を築いた。
また、利休は茶道具の目利きを行い、茶道具の価値を更に高めることに寄与した。因みに、茶道具の目利きを証明する手段として、それを収める箱に利休等が茶道具の伝来等とともに自らの署名・花押を認めること(いわゆる「箱書」)を行っていた。この「箱書」により道具の価値は高まり、当時では高値で取引された。現在でも古美術の鑑定において「箱書」は重視されていると聞く。
だが、茶人としての利休は単なる芸術家だけでなく、目利きにより本来美術品である茶道具を格付することにより高価な資産に転化する力を具備したものと考えられる。秀吉(または石田三成)はこの力を恐れたためか、利休の茶道具の目利きを「売僧(まいす)の行い」としてあげつらい、利休を切腹に追い込んだといわれている。
翻って現在の金融資産の格付についてみると、格付会社が様々な金融資産をその金融資産を発行する発行体の財務体質や収益等を勘案して格付を行っている。当然、格付機関は厳格に中立性、公平性、正確性、透明性に基づいて格付を行ってはずであると考えられてきた。だが、サブプライム問題により債券等格付の妥当性が疑問視されたこともあった。加えて、近年の欧米におけるソブリンリスク問題においても、格付機関による格付が一国の財政危機の帰趨を握るだけでなく、世界経済にまで影響を及ぼしつつある。
格付機関が恣意的に格付を行うことはありえないだろう。だが、仮にそのようなことがあれば、利休が「売僧の行い」のレッテルを貼られたように、投資家からの信認を失うばかりか、金融資産の価値が下落することにより金融市場に大きな混乱を来たすことにもなりうる。今日のような金融経済情勢において、金融資産の目利きはより一層難しくなり、その格付に際しては一層の慎重性が肝要となろう。
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