中国のインフラとインフラファンド

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2011年08月02日

  • 藤井 佑二
なでしこジャパンが優勝した。優勝候補筆頭の米国・ドイツを破っての優勝は驚きだったが、敵陣高い位置でのプレッシング、長短織り交ぜたパス回し、緩急つけた攻撃は、見ていて楽しい印象的なサッカーだった。日本で女性がサッカーを始めてから約50年、女子サッカー日本代表が誕生してから約30年。ワールドカップ優勝は、関係者が日々努力をしてきた結果であり、関係者の地道な努力を称えたい。ところで、約10年前までアジアで最も強い女子サッカー代表チームは、中国だった。中国では、91年にFIFA(国際サッカー連盟)主催の第1回女子ワールドカップが自国で開催されるのを機に女子サッカーが急速に注目を浴び、95年の第2回大会では4位、99年の第3回大会では米国にPK戦の末に惜敗したが2位という好成績を収めている。強化は、運動神経の良い子どもを全国から集め、少数のエリートに巨額の資金をかける方法で行われ、短期間で大きな成果を上げた。しかし、一部の人に強化対象が限られたため選手層が薄く、結果が出なくなると関心も薄れ、先日日本が優勝したワールドカップでは、アジア予選で敗れている(図表)。成果を短期間で求めるあまりに後で問題が生じる事態は、中国では女子サッカーに限らず、他の事象にも見られる。その一つが、中国のインフラ整備である。

中国では、中央政府や地方政府が、経済発展を理由に鉄道や道路、発電所などインフラの整備を急速に進めている結果、「不正」や「過剰投資」という問題が起きている。中国では、インフラ整備をする過程で、公共部門が民間事業者に賄賂を要求する、あるいは民間事業者が利益を手にするため、工事の質を意図的に下げているとの指摘は多い。また、地方政府では、役人の昇進が担当地域の短期間における経済発展と関連するため、採算が合わなくても、短期的な成長を求めてインフラ整備を過剰に進めているとの指摘も存在する。そして、その過剰投資が今後、中国の地方政府の財政上の大きな負担になる可能性が出ている。中国では、地方政府が銀行から直接借入金を受けることができない。そのため、地方政府が設立した投資ビークルを通じて、主に銀行からの借入金を使ってインフラ整備に資金を拠出しており、中央政府による昨年の調査では、地方政府の投資ビークルは昨年末で1.2兆ドルの借入金残高を抱える。しかし、採算性を無視して過剰なインフラ整備が行われている結果、借入金残高の4分の1が債務不履行になるリスクがあるとも指摘されており、今後地方政府が債務削減のため、インフラ資産を売却する動きが加速するとの見方が出ている。

中国の地方政府によるインフラ資産の売却が今後見込まれる中、投資機会と捉えているファンドが存在する。それが、豪州金融グループ大手のマッコーリー・グループと、中国の金融大手チャイナ・エバーブライト・グループが組成した、Macquarie Everbright Greater China Infrastructure Fundである。同ファンドは、地方政府によるインフラ資産の売却機会を利用し、インフラ資産を取得することを目指す方針で、有料道路や空港など150件のインフラ資産を投資対象として検討する予定である。今年6月にファンドの最初の募集を締め切り、PGGM(オランダ)、韓国教員信用組合(韓国)など海外の大手機関投資家からコミットメントを集め、外部からのコミットメント残高は合計7.3億ドルとなった。インフラ整備に絡む借入金の問題が今後大きくなった場合、中国の地方政府によるインフラ資産売却の受け皿の一つとして、中国におけるインフラファンドの動向は、今後注目を浴びると予想する。

FIFA女子サッカーワールドカップに関する中国と日本の成績

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