歴史が示唆する欧州債務問題の結末

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2011年07月21日

  • 佐藤 清一郎
ギリシャなど欧州の債務問題は、今後どうなるのか。これを考えるうえで参考となる歴史的出来事が2つある。第1は、1990年代初めの旧ソ連邦崩壊であり、第2は、1997年のアジア通貨危機である。両者とも、構造改革・転換を含んだ歴史的に極めて重要なエポックだったわけだが、おそらく、両者とも、その当時の政策担当者が意図した方向とは異なる結末となっている可能性が高い。

1990年代初めの旧ソ連邦崩壊では、計画経済システム下のノルマ主義や手厚い社会保障等が主な原因となって、膨大な財政赤字を生み出した。結果、旧ソ連邦全体のコントロールが不能となり、中央集権型のシステムは崩壊、旧ソ連邦共和国が独立して独自通貨導入となった。1990年代初めは、欧州が統合を進めている、まさにその時期に、旧ソ連邦は共和国独立という逆のことを行なったわけだが、ここで学ぶべきは、不良資産化したものや機能不全に陥ったシステムは、支えようとしても無理が生じ、最終的には分離や廃止をしないかぎり事態改善はないということである。1997年のアジア通貨危機では、ドルペッグを採用していた国がドルの増価とともに為替水準が経済力と乖離して崩壊という構図だったが、ここで学ぶべきは、為替等の経済変数が経済の実力を反映した水準でなければ、経済の持続力に疑問が生じ、経済は崩壊の危機を迎える可能性が高いこと、そして、崩壊後、経済変数がリーズナブルな方向に変化すれは、経済は復活することなどである。

ギリシャなどの債務問題解決に向けた本質は、国の競争力回復にある。既存の延長線上での努力では競争力向上に相当の時間が必要であり、比較的短期間に競争力をつけるには、どうしても経済変数の変化、即ち、構造変化が必要なのである。債務に苦しんでいる国にとって、通貨ユーロが重荷になっているのは明らかで、ここを何とかしないといけない。欧州の政策当局者は、通貨圏加盟国の縮小は通貨統合失敗との印象を与えるとの懸念からか、なかなか大胆な対策を打ち出せないでいるが、思い切って、ギリシャ、ポルトガル(場合によってはスペインやイタリアも)など、相対的に経済力の弱い国々のユーロ圏からの脱退も含め、通貨統合の修正を模索すべきだろう。もちろん、混乱、金融市場へのショックは避けられないが、それらは次なる発展ステージへのきっかけを生み、全体として、欧州の経済的価値を増大させるものとなる。欧州の場合は、経済統合は純粋に経済面だけで行われているわけではなく、安全保障面なども勘案されているので、話は単純に経済面だけで割り切れない部分もあるが、経済面での不安定性の高まりは、それ以外の面にも悪影響を及ぼすのも事実である。政策担当者の努力は意味がないとは思わないが、政策担当者の意図したことと違う結果が起こることも珍しくないというのは、歴史が教えるところである。今回の欧州債務問題の結末は、経済統合という事象を考える際の重要な歴史的エポックとして後世に残ることになるかもしれない。

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