復興計画のプロジェクトマネジメント

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2011年07月12日

  • 藤永 恭夫
「プロジェクトの成果はマネジメント次第」と痛切に感じた件がある。東日本大震災復興構想会議の提言の話である。目に見える建築物等のプロジェクトだけでなく調査・提言もマネジメントの出来、不出来で成果に大きな差が出る。提言は「単なる復興ではなく、創造的復興」と銘打った被災地の将来のグランドデザインである。内容は、(1)減災の概念を取り入れ、被災地域を5つに類型化した地域づくり、(2)産業振興、雇用創出による地域経済社会の再生等で構成されている。報告書としては2ヶ月半をかけた力作であるが、これを元に具体的な復興の制度設計を進めるには、提言の意図を理解するだけで苦労する。土地利用等については緊急性を考慮したさらなる具体策が欲しかった。

提言への世論の評価は手厳しい。コンパクトにまとまっている、特区構想等特例の復興手法が盛り込まれていると肯定的な意見はあるものの、スピード感がない、抽象的で具体性がないと批判的な意見が多い。各分野から一流の有識者を集め、その成果に期待が高かっただけに落胆は大きい。マネジメントの観点から言えば、依頼事項が抽象的であればいくら有識者を集めても成果物もそれに応じたものになる。一方、明確な依頼は必然的に具体性を生む。例えば、依頼主(政府)の要請が、「緊急性が最優先、取りまとめ期間は1ヶ月、被災各県と共同作業等」の条件であれば内容は全く違ったものとなる。

プロジェクトマネジメントの要諦は(1)顧客満足が得られる内容、(2)スケジュール、(3)コストの管理である。プロジェクトマネージャーは(1)-(3)を常にチェックし効率的なプロジェクト遂行がなされるようメンバー(委員)を選定する。適切な委員を選定し、業務遂行方法を決めた段階でプロジェクトの成否は決まったようなものである。今回の委員は著名な知識人が多く、実務家が少ない。提言をいかに次の具体的施策につなげるかが課題となる。ただ、被災県である岩手、宮城、福島は県知事が委員として参加しており、構想会議に先行して県独自に復興計画を策定し、会議に積極的な提案をしていた立場である。12回に亘る復興会議では提言に示されていない多くの事項が議論されたはずである。議論に参加した各知事にはこれらの事項も各県の復興計画にぜひとも活かしてもらいたい。

プロジェクトの計画・戦略の策定方法は有事と平時では根本的に違う。4ヶ月たって瓦礫の処理もままならず、まだ避難生活者数が10万人余とは緊急事態が長く続く有事であろう。最重要視されるべきは、スピード感のある復旧・復興である。復興会議で謳われている創造的な復興はもちろん大きなテーマであるが、議論している間に産業が疲弊し雇用が失われ人口流失に拍車がかかるようであれば本末転倒である。まだ、復旧・復興は緒に就いたばかりである。首相、復興相をトップとする政治家にはマネジメントの本質をよく見極めができるプロジェクトマネージャーであることが望まれる。

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