アメリカの「失われた10年」と日本の「失われた20年」

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2011年07月04日

  • 木村 浩一
1年前のアメリカの景気回復への楽観的見通しとは打って変わって、最近では原油価格の上昇や東日本大震災の影響などにより、アメリカの景気に対する悲観的見通しが増えてきているようだ。過去の景気回復期のGDPの伸び率と比べ、今回、反発力が弱いのは、過去のバブル崩壊時と同様、やはりバランス・シート調整に時間がかかっているためとみられている(ちなみに、アメリカの名目GDP15兆ドルに対し、個人の住宅ローン、消費者金融残高は12兆ドル)。

バブル崩壊後の日本が、「失われた20年」を経て、2010年度の名目GDP(475兆円)は、1991年、92年の水準に戻ってしまい、今なお経済不振、デフレに苦しんでいる。アメリカも「日本化」するのだろうか。

日本では、1990年代後半以降、ゼロ金利が15年近く続いているが、日本の個人金融資産は、借金よりも預金が多いため、ゼロ金利の恩恵は少なく、ネットで金利所得の減少となって個人所得上、マイナス効果をもたらしてきた。現金、預金、債券の合計と借金の差額は、1990年度末222兆円であったものが、2010年度末には555兆円に増え、日本の個人は、この20年間、利子所得を生まないにもかかわらず、貯蓄を増やしてきた。

個人から1990年代は主に企業に、2000年代は主に国家財政に膨大な所得移転が行われたことになる。政府への所得移転は実質上増税と同じ効果があり、個人消費の縮小、将来不安から一層の貯蓄増加、消費の減少、と悪循環を起こし、経済の低迷とデフレが長期にわたる原因となった。

他方、アメリカは、個人金融資産に占める株式、投資信託の占める比率が高く(44.3%、日本は9.7%)、一方、現金、預金、債券の割合が少ない(22.2%、日本は57.9%)。そして、住宅ローン、消費者金融の残高が現金、預金、債券の残高の合計を上回り、個人にとって金利低下はネットでプラスとなっている。アメリカでもバランス・シート調整には更に数年を要するだろうが、ゼロ金利の個人の所得への影響は、日本と比べ限定的ではないかと思う。

日本でゼロ金利がかくも長く続いたことは、国内の景気低迷が長期化し、資金需要が低迷した結果だが、1,500兆円の個人金融資産が果実を生むように経済を活性化しなければ、「失われた20年」は更に続き、果実を生む海外への個人金融資産の流失が止まらないだろう。

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