国民皆保険制度の再構築にあたり~これからの半世紀に向けて

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2011年06月07日

  • 鈴江 正明
1961年に国民健康保険が全国に普及し、すべての国民が年齢や性別に関係なく公的な健康保険への加入が義務付けられるようになった。これにより世界に誇れる国民皆保険制度、すなわち「誰でも」「いつでも」「どこでも」保険医療が受けられることになったのが、今からちょうど半世紀前である。

その当時(1961年度)、16兆819億円の国民所得に対し国民医療費が5,130億円だったのが、直近(2008年度)では、351兆8,834億円の国民所得に対し国民医療費が34兆8,084億円に達してきている。国民所得に占める国民医療費の割合は3.19%から3倍を超える9・89%となっており、国民医療費の伸びには尋常でないものを感じる。これは、バブル崩壊以降の長引く景気低迷、急速な高齢化さらには医療の高度化によるものである。

また、この半世紀の間、社会情勢やライフスタイルも大きく変化してきている。終身雇用制度の終焉と非正規労働者の増加、共働き世帯や晩婚化・離婚による単身世帯の増加、都市部への人口集中と地方の過疎化、地域社会のつながりの希薄化、社会的ストレスの増大などである。

こうしたなか、税制改革による財源確保を含めた社会保障制度の抜本的な見直しが、政府・与党社会保障改革検討本部で進められている。保険料という名の下、リスクの大きい人から保険料を徴収するのではなく、応能負担ということで取れるところから取るという姿勢は安易過ぎる気もするが、この際、徹底的な議論を重ねて欲しい。半世紀前に設計された国民皆保険制度は、その前提条件に大きなズレが生じており、間違いなく様々な問題を抱えて目詰まりを起こしている。何が公平なのかを突き詰めて、多くの国民が安心かつ納得できる制度に刷新して欲しい。

ただ、ここで最も大切なことは、我々サラリーマンが当事者意識を持って議論を見守り、必要であれば、はっきりと声に出すことでなかろうか。なぜなら、保険料は労使折半となっているものの事業主負担分は本来給料等として我々が受け取れるものであることや、国民皆保険制度を安定的に維持・運営するため、我々の保険料から国民健康保険に財政支援が行われていたり、我々が払った所得税、住民税などから公費として投入されていたり、この制度の中身をよく吟味すればするほど、財政を実質的に支えているのが我々サラリーマンであると思い知らされるからである。

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