紛争鉱物開示にみる企業の社会的責任

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2011年06月06日

  • 山口 渉
「紛争鉱物」(conflict minerals)とは、アフリカ等の紛争地帯において採掘される鉱物資源を示す。産出国にとって貴重な外貨獲得源であるこれら鉱物も、紛争の資金となって内戦等を長引かせ、当該地域において人権侵害を惹起する側面が指摘されている。

社会的責任投資(SRI)が活発な米国では、紛争鉱物を背景とした人権問題に対する企業の取り組みを促す注目すべき動きが展開している。即ち、2010年7月に可決した米国金融改革法(ドッド=フランク・ウォール街改革及び消費者保護に関する法律)により、自社製品に「紛争鉱物」を使用しているSEC登録企業(製造業)は、年次報告書において、その原産地について合理的な調査を踏まえて開示する義務を負うこととなっている(第1502条)。

「紛争鉱物」には、内戦による深刻な人権侵害が続いているコンゴ民主共和国およびその隣接国に源泉を有する、タンタル鉱石・金・すず・タングステン鉱石・又はそれらの派生物が指定されている。これらには、携帯電話、パソコン、航空機器等のハイテク分野をはじめ、装身具等、多くの使途があるうえ、直接適用対象になるSEC登録企業だけでなく、これら企業のサプライ・チェーンに含まれている場合には原産国調査等を求められること等から、広範に影響が及ぶ可能性がある。企業の社会的責任(CSR)という切り口から、紛争の資金源を断とうとする試みだが、開示を行う企業の負担の重さは否定できないだろう。

米国のSRIは、教会資金の運用から発し、ベトナム反戦運動に伴う軍事産業への投資忌避等を通じて存在感を増してきた。昨今は、環境問題への関心の高まりを背景に増勢し、企業なども無視できない存在だ。また、環境問題や企業統治といった伝統的なSRIの関心事も多様化し、スーダン等の民族紛争地域でビジネスを展開している企業に対する投資忌避等、CSR全般に目を光らせるようになった。

CSRという点では、昨年発行された「ISO26000」や、サスティナビリティ・レポートの代表的枠組であるGRI(Global Reporting Initiative)の改訂版「G4(2013年発行予定)」等において、人権分野を中心にした動きが目立つようになった。企業においては、このような動向への対応を怠れば、グローバル・バリュー・チェーンからのペナルティだけでなく、法的責任追及の可能性もあるため、サプライ・チェーン・マネジメントの一層の高度化を図る必要に迫られていると言えるだろう。

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