東日本大震災後の貸金業制度の再構築のすすめ

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2011年05月31日

  • 島津 洋隆
東日本大震災以降、東北地方を中心とする被災地において、地方銀行や信金・信組、農協・漁協などの「金融機関」から融資を受けている企業の中には、既存融資の返済が滞る企業も出ることが想定される。こうした事態に対処するため、政府は「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」を2012年3月末まで1年間延長等を講じる法律改正を行った。

「金融機関」や政策金融以外の貸し手、つまり消費者金融などの「貸金業」の融資やその貸付先については、政府はどのような措置を講じたのか。「貸金業」を利用する東日本大震災の被災地における中小零細企業の厳しい実情に鑑み、政府は「貸金業法施行規則の一部を改正する内閣府令」(4月28日公布・施行、以下「府令」と記載)より、被災した個人事業主への借入手続の弾力化を講じた。

では、「貸金業」を利用している中小零細企業の資金繰りの実態はどうなっているのであろうか。既に「金融機関」から融資を受けて土地や機械設備等の担保設定限度額に達した企業や、担保に供せられる資産を持たない中小零細企業は、「貸金業」から無担保・高金利の資金を賄っているケースも少なくないといわれている。それを裏付けるものとして「貸金業関係統計資料」(金融庁)がある。この直近の統計によると、2010年3月末時点で、監督当局から認可を受けた「貸金業」における、「事業者向け貸付残高」は17.2兆円、「消費者向け貸付残高」は12.6兆円となっている。東北財務局管内では、「事業者向け貸付残高」は723億円、「消費者向け貸付残高」は534億円となっている。

この金融庁統計から「貸金業」の役割は無視できないことがうかがえよう。これを更に強く裏付けるものとして、2010年2月18日の金融庁プロジェクトチーム(PT)における「貸金業」の利用者の意見聴取が行われた際の会議録がある。この会議録に、銀行や政府系金融機関が短期資金の融資に消極的であり、融資の実行までに審査手続により時間がかかるため、「貸金業」から調達する短期のつなぎ資金の金利負担を感じることはない旨の中小零細企業経営者の意見が記載されている。こうした全国の中小零細企業経営者の無担保・高金利の資金需要は根強いものがあるといえよう。

それにもかかわらず、多重債務による「過重債務者」問題の解決を目指した改正貸金業法が2010年6月に完全施行された。同法改正に伴い、この金融庁PTで有識者から問題が大きいと指摘されていた、「上限金利規制」(2010年6月18日以降、出資法の上限金利が20%に引き下げ)や「総量規制」(全ての貸金業者からの借入の合計が、年収の3分の1以内とする規制)などの規制が新たに導入された。

では、「上限金利規制」や「総量規制」の問題点は、「府令」の措置で解決したのであろうか。「府令」の措置は今年10月末までの短期間の時限措置にすぎないため、「上限金利規制」や「総量規制」の問題点を完全に解決したとは言いにくい。

東日本大震災を機に、全国や特に東北を中心とする被災地における中小零細企業の資金繰りの円滑化を図る一つの解決策として、現行「貸金業法」の「上限金利規制」や「総量規制」の見直しに着手することを望みたい。消費者金融などの「貸金業」も、被災地の中小零細企業の復興の後押しを担えるように、貸金業制度の再構築を期待したい。

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