はたして日本企業はオープンソースソフトウェアのメリットをどれだけ享受できるか?

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2011年05月24日

  • 二宮 聡広
2010年末に興味深い記事を目にした。それはロシアのプーチン首相が、ロシア政府に対してLinuxを代表とするオープンソースソフトウェア(OSS)の利用を促す指令書にサインをしたというものであった。OSSとは、ソースコードが公開されているソフトウェアを指す。ライセンス料金を支払わなくてもソースコードを自由にダウンロードして利用できることが多い。また、ソースコードを改修して利用できるライセンスもあり自由度が高いともいわれている。

実際にOSやミドルウェアを中心に近年OSSに対するユーザ企業の関心は高まっている。また、IT企業も幅広い分野でOSSを提供し始めている。米国でIT活用が目立つボストンとシリコンバレーにてユーザ企業やIT企業に「何故OSSを利用/提供するのか?」をヒアリングした。ユーザ企業のメリットは、ソフトウェアにかかるライセンス料金の抑制という回答が多い。また、ユーザ側・提供側共に、OSSのコミュニティへの参加を通したユーザ側の要望反映/取込みといった回答もあった。利用者側でプログラムを改修することで、自社に最適なシステムに作り替えることができる自由度を評価する声も聞かれた。例えばある米国の金融機関では、資金力を最大限に活かして、ITスキルの高い人材を集めて自社が使いやすいようにOSSを修正している。また、OSSに関する経験や知識を共有し技術力を組織全体で高めている企業もある。OSSの自由度を最大限に活用するその前提には、OSSをソースコードレベルで理解できる技術者の存在がある。

日本企業にとってコストや機能の要望反映に加えて、上記で挙げたようなオープンソースの自由度を本当に享受できるだろうか?多くの日本企業では、OSS自体の機能不足や、改修のための技術者不足などにより、導入を手控えているともいわれている。OSSをサポートする企業なしでは商用環境で利用できないのが日本企業の現状であろう。一方、多くの企業がITコストの削減を進めている時代でもある。各企業がOSSを自社向けに改修するための体制作りは、ビジネスの効率化にどれだけ寄与するかを測定した上で行うべきだろう。

さらに、日本のユーザ企業が、オンラインによるコミュニティで運営されるオープンソースへの関与を深めるには、技術者のグローバル化も重要なポイントであろう。OSSを利用する際に、最先端且つ最新情報ほど日本語のドキュメントは少ない。シリコンバレーの先端的なIT企業のオフィスでは、インド・ロシア・韓国・中国系の技術者を見かける一方で、日本人技術者に会うことはなかった。オープンソースの自由度という面のメリットを享受するためには、国境や言葉の壁をこえて海外の技術者と同じ土俵で渡りあえる技術者の育成・確保が求められるのではないだろうか。

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