今こそ空洞化の穴を埋める議論が必要
2011年05月16日
東日本大震災から2ヶ月が経過した今なお、原子力発電所の問題やサプライチェーンの寸断などは事態が収拾していない。特に、サプライチェーンの寸断は企業に部材の調達リスクを認識させ、海外へ生産拠点を移転させるなど産業の空洞化を助長する可能性がある。
具体的に、自動車向けマイコンなどで話題に上がっている半導体産業の状況を確認しておこう。半導体製品(以下、製品)の生産・輸出を行う上で供給側のボトルネックとなるのが生産能力で、生産能力を引き上げるためには設備投資が必要だ。今回は設備投資の代理変数として機械受注(※1)を用いて半導体産業の生産計画をうかがう。
半導体産業はパソコンの普及などに伴い1990年代から急速に日本の輸出が増え、直近でも6%前後の輸出シェアを占める重要な輸出産業となっている。これまで、国内からの半導体製造装置の受注は、製品の輸出(世界需要)に沿った形で行われていた。これは、国際的な分業に、日本の半導体産業が組み込まれているためであると考えられる。ここでは、中国などが日本製の半導体の輸入・加工を行い、パソコンやテレビとしてアメリカ・EUなどに輸出する形をイメージされたい。
更にデータを見てみると、半導体製造装置の国内・海外からの受注はこれまで一定のバランスを保っていた。しかしリーマン・ショック後、外需は急回復して危機前の水準に戻っているが、内需は依然低水準のままで回復のペースが乏しい。これは、世界の製品需要が高まっている中、海外の需要に国内の増産で対応する必要がなくなってきたためだ。半導体市場では、日本企業における国内生産の必要性が低下したのか、もしくは国際分業の中で日本の必要性が低下したのか。いずれにせよ、震災前から半導体産業の空洞化の前兆となり得る動きが見られていた。
そして一部の報道発表によると今回の震災を受け、半導体産業に限らず幅広い業種で生産拠点を見直す機運が高まっており、空洞化が更に加速する可能性がある。ただし、雇用維持など国内経済発展のためには抜けた穴を埋めなければならない。そのため、復興の議論と共に円高対策やTPP(環太平洋経済連携協定)への参加、海外企業の誘致などの議論も行う必要があるのではないか。
(※1)機械受注とは、内閣府が毎月集計を行なう統計で、機械製造業者の受注する設備用機械類の受注状況を調査し、設備投資動向を把握するために用いられている。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日