認知症被災者のストレス軽減への配慮

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2011年04月26日

  • 柏崎 雅代
3月22日、10年ぶりにアルツハイマー型認知症の治療薬「レミニール」(※1)(一般名ガランタミン)が発売された。これまで、国内ではアルツハイマー型認知症の治療薬は「アリセプト」(※2)(一般名ドネペジル)のみであったが、近々発売予定の「メマリー」(※3)(一般名メマンチン)や、4月22日に初の貼り薬として製造販売が承認された「リバスタッチパッチ」(※4)(一般名リバスチグミン)など、アルツハイマー型認知症の薬の選択肢が広がることになる。いずれも認知症の進行を抑える薬である。

アルツハイマー型認知症といえば認知症の代名詞のように思われるが、実は認知症の症状をもたらす疾患は様々である。脳の神経細胞が減り脳が萎縮する「アルツハイマー型認知症」のほか、脳梗塞や脳卒中などで脳の血管がつまったり破れたりして脳の働きが悪くなる「血管性認知症」、大脳皮質に異常な構造物がたまることで発症する「レビー小体型認知症」の3つが代表的なものである。

認知症は加齢とともに発症リスクが高まる。厚生労働省によれば、2010時点で65歳以上のおよそ14人に1人(208万人)(※5)が認知症であると推計され、85歳以上における認知症出現率は27.3%とされている。認知症の中核症状は、記憶障害や言語障害(失語)、自分のいる場所や現在の日時が判断できない見当識障害などであるが、症状の進行とともに認知症のタイプによって妄想、徘徊、幻覚、不眠、うつなどの周辺症状が現れてくる。認知症の根本的な治療薬の開発はまだ実現していないため、本人も家族をはじめとする身近な人も認知症と向き合っていく期間は長い。

認知症の方は環境の変化に敏感である。ストレスにさらされると混乱し、落ち着かずに大声を出したり徘徊したりする人も少なくない。東日本大震災の被災地あるいは避難先で、慣れない生活を余儀なくされている認知症の方やご家族、介護職員のご苦労が察せられる。

「認知症介護研究・研修東京センター」が過去の震災時の避難所での支援体験をもとに作成した『避難所でがんばっている認知症の人・家族等への支援ガイド』(※6)によれば、「ざわめきや雑音のストレスから守る工夫」、「話すときはゆったり、一つずつ話す」、「本人なりに見当がつくように情報を話す」など、認知症の方の症状を安定させ、ご家族や介護職員など周り方々の負担も軽くなるようなちょっとした配慮が具体的に紹介されている。少しずつでも安心・安全な環境が確保されることを祈りたい。

(※1)「レミニール」(一般名ガランタミン):販売者はヤンセンファーマと武田薬品工業
(※2)「アリセプト」(一般名ドネペジル):販売者はエーザイ、1999年から発売
(※3)「メマリー」(一般名メマンチン):販売者は第一三共、近々発売の見通し
(※4)「リバスタッチパッチ」(一般名リバスチグミン):4月22日製造販売承認、販売者はノバルティスと小野薬品工業(※5) 2010時点で65歳以上のおよそ14人に1人(208万人)が認知症:2003年6月 厚生労働省老健局資料による。認知症自立度Ⅱ(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られても誰かが注意していれば自立できる)以上の人を推計。
(※6)『避難所でがんばっている認知症の人・家族等への支援ガイド』
 上記支援ガイドは、公益社団法人 全国老人福祉施設協議会によってイラスト版が作成され、5万部が避難所等へ配布されている。 

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