グローバル・インバランス是正のG20合意と中国
2011年04月22日
昨年秋のG20会合以来、所謂グローバル・インバランスをどのように是正していくべきか、そのモニタリングのため、いかなる指標を用いるべきかといった議論が注目を集めてきた。2月の仏でのG20では、グローバル・インバランス是正のための指針として、貿易収支等対外バランス、財政赤字、貯蓄率等を採用することとされ、4月の会合で、これら指標の評価を行うアプローチが合意された。また、不均衡のより詳細な評価を受ける国の判定にあたっては、G20全体のGDPに占める当該国の比率が、名目または購買力平価為替レートで5%以上であることがとくに考慮されるとされた。本合意に基づく不均衡を抱える国の実際のサーベイランスは、本年秋以降からになる見込みである。
グローバル・インバランスの実態を、米中日等とアジア新興経済の経常収支で見ると、昨秋のG20での初期の段階で米国が主張した、経常収支の黒字または赤字の対自国GDP比が±4%を超えるかどうかという基準では、主要国の中では、中国が明らかに抵触し、米独日が抵触するかどうか微妙、他方、他の多くのアジアの新興経済は、4%ラインを大きく超えていた。しかしこれら新興経済はいずれも経済規模が小さく、その経常収支不均衡を問題にしても、それぞれの国内経済の状況を評価する上では一定の意味はあっても、グローバル・インバランス是正という観点からはほとんど意味がない。対世界GDP比で見ると、グローバル・インバランスの主要プレーヤーは米中独日であり、米国の赤字をおおむね中独日3カ国の黒字でファイナンスしている姿が浮かび上がる。4月G20で、上記、「5%以上の経済規模」であることがとくに考慮されると合意されたのは、その意味で当然である。世界的な金融危機を経て、2008年から2009年にかけ不均衡はやや是正されたが、その後2010年に再び拡大しており、IMFの直近の予測では、今後数年さらにその傾向が強まる見通しである(米国の赤字と中国の黒字が拡大する一方、日独の不均衡はやや是正)。グローバル・インバランス是正には、とりわけ米国の赤字と中国の黒字にどう対処していくかが鍵になることは明らかだ。
G20での議論はもっぱら、人民元相場にからめて不均衡是正の評価の枠組み構築を主張する米国と、これに抵抗する中国という図式で伝えられてきた。確かにそうした構図がなくもないが、中国がとくに警戒していた点は、この問題に関し、国際的に不均衡の主犯として「名指しで非難」されることであったと思われる。4月G20直後の4月18日付人民日报や同17日付明報は、会議の事実関係を淡々と紹介する一方で、わざわざ、「本合意で詳細な評価を受けることになるのは、米日独仏英と新興国の中印の7カ国になる見通しであり、その意味で、これは一部消息筋が予想していたようなG20の精神に反する“点名批評方式”でないことは明らか」(人民日报)、また「中国は会議の成果に満足」(明報)、と伝えている。合意された内容からすると、不均衡の評価プロセスは、(1)今後かなり技術的、専門的なものになると思われること、(2)対外インバランスの規模や財政赤字などから考えると、中国が、グローバル・インバランスの主犯と主張してきた米国が、中国同様あるいはそれ以上に詳細な評価・監視を受ける可能性があること、(3)他方中国自身は、すでに12次5ヵ年規画で成長パタンの転換方針を打ち出し(中国側からすれば、やるべきことはやっている)、また人民元相場についても、国内インフレ抑制等の観点から、相当程度柔軟な切り上げを許容し始めている節がみられることを考えると、G20合意は、中国側としては、実はむしろ歓迎すべきものかもしれない。



このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
議決権行使助言業者規制を明確化:英FRC
スチュワードシップ・コード改訂で助言業者向け条項を新設
2025年06月10日
-
上場後の高い成長を見据えたIPOの推進に求められるものとは
グロース市場改革の一環として、東証内のIPO連携会議で経営者向け情報発信を検討
2025年06月10日
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
「内巻」(破滅的競争)に巻き込まれる中国自動車業界
2025年06月11日