アジアが求める防災インフラ

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2011年04月11日

  • 藤井 佑二
このたび東日本大震災により被災に会われた方々に、心よりお見舞い申し上げます。また、被災に遭われた地域の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。

日本の地震観測史上最大のマグニチュード9.0を記録した東日本大震災の発生から1ヶ月。地震、津波そして原発事故は、広範囲にわたり深刻な被害をもたらしており、現在(4月8日時点)でも原発事故は依然危機的な状況を脱せず、被害の全容は掴めずにいる。今回の大震災は、人的被害のみならず、道路や水道などインフラ面でも、甚大な被害を与えた。内閣府の試算では、被災地域でのストック (※1)面での毀損額は、全7県で約16兆円から約25兆円に上り、最も被害が大きかった岩手県・宮城県・福島県の3県では、ストック総額(推計70兆円)の20%から32%が被害を受けたと見込まれている。

東日本大震災では、津波防波堤や緊急地震速報、津波警報といった各種防災インフラの効果にも注目されたが、想定を超える災害を前に、防災インフラは成術がなかったとの声が聞こえる。例えば、岩手県宮古市では高さ約10メートルを超える防波堤を設置していたが、津波は防波堤を越えて市内に侵入。同県釜石市では、港に強固な防波堤を設置していたが、防波堤の基礎部分が破壊され、いずれの市も大きな被害を受けた。また、緊急地震速報や津波警報は、地震や津波の発生前後に通知出来たが、通知を受けてから避難するには時間があまりにも短かった。結果として、防災には、インフラ整備といったハード面だけでは不十分であり、学校現場での防災教育・訓練の徹底といったソフト面に加え、高台への住居移転といった抜本的な対策を組み合わせる必要があることが、より明確になったといえる。しかし、港湾空港技術研究所によると、釜石港の防波堤は、津波防波堤がなかった場合に比べ、水位上昇までの時間を6分間遅らせ、また東北新幹線では、地震の前触れとなる初期微動を検知して、本格的な揺れが始まる前に停止動作に入り、1本も脱線しないなど、防災インフラが災害の被害軽減に一定の効果があったことは事実である。

東日本大震災は、甚大な被害をもたらし、国内に暗い影を落としているが、日本は今回の大地震における防災対策の有効性を検証し、今回の経験を活かすことが重要である。長期的には、国内だけでなく、国外でも活かすことが出来ると考える。特に、アジア地域は、1900年から2005年の間に世界で起きた災害による経済的損失額の49%、人的被害(死亡者数)の91%を占め、災害が最も多い地域である(図表)。加えて、アジアでは、経済発展と伴に急速に都市化が進み、災害が大規模な経済的損失・人的被害に繋がる可能性が高まっており、防災対策の必要性は一層高まっている。一方、日本は、1980年以降では、名目GDPの約0.6%を毎年防災関係予算に使い、長期にみれば災害による経済的損失・人的被害を低減させてきた実績を持つ。また、政府は、2010年6月に定めた新成長戦略の中で、アジア諸国の経済発展を自国の経済成長に取込み、アジアを中心にインフラ輸出を図る戦略を打ち出した。防災インフラの整備を含め防災ノウハウを提供することで、日本はアジアの経済成長を災害から守ることが出来る。また、防災におけるインフラ面の強みを、日本のインフラの強みとしてアジアにアピール出来ると考える。


(※1)建築物(住宅、民間企業設備)、電気・ガス・水道、社会インフラ(道路、港湾、空港等)、その他(都市公園等)

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