アジアの空間短縮化へ~シームレスアジア~

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2011年04月05日

  • 佐藤 清一郎
出張であれ観光旅行であれ、アジア地域をストレス無く安心して自由に移動できる環境があれば、どれほど楽であろうか。日本では、新たに羽田が国際空港として登場したが、アジア地域での移動を考えた場合、まだまだ時間がかかるし費用もかかり、アジアは遠いという印象は否めない。欧州域内のように、それほど時間とお金をかけずに、いろんな場所に行けるのは、本当に便利だし、空間的な狭さを実感する。もちろん、欧州に比べて、アジアは面積が広いので、移動に時間もお金もかかるのは確かだが、それにしても、もう少し空間的な狭さを実感したい。

改めてアジア地域を見渡すと、日本、韓国、シンガポールなど一部の国を除けば、まだまだ発展途上で整備すべきインフラは膨大である。また、国内のインフラが整備されている国でも、他国とのつながりという観点でのインフラは必ずしも十分ではないケースもある。こうしたことが、アジアの空間短縮化の大きなネックとなっている。

シームレスアジア、切れ目のない世界、これが今、アジアが目指していることだ。主目的の一つは、勿論、アジア地域内の経済的距離を短縮し経済効率性を高めることである。ここで言うアジアとは、ざっくり言えば、東は日本、西はインド、南はインドネシア、北は中国といったエリアである。この地域に、道路、鉄道、空港、港などのインフラを整備して、人、物が、気軽にそして迅速に移動できるようにしようとする試みである。シームレスアジア構想への期待は大きい。何故なら、ハードインフラ整備が進展していけば、それに伴って、域内統合に向けた、制度や基準認証の統一、共通通貨などの話も盛り上がってくるからである。アジア統合という掛け声の下、文言先行で、様々な議論をしたところで、各国がお互いに近いとの感覚を持つことができなければ、議論も確かなものとはならない。

問題は、この目標がどのくらいの時間で達成できるかである。これについては、残念ながら、必ずしも楽観的と言えない面も多い。第一の問題は、インフラ整備資金の問題である。アジアは、今、高成長の波の中にある国が多いが、インフラ資金は膨大で、必ずしも資金面で十分というわけではない。資金捻出のために、民間資金の利用も含め、PPP(パブリックプライベートパートナーシップ)等のスキーム活用を考えているが、現実には、政策立案者の知識・ノウハウ不足等でそれ程進展していないのが実情である。

第二の問題は、国を超えたインフラ整備に関して、必ずしも各国の調整がスムーズになされていないということである。インフラ整備の優先順位等について各国の利害が対立し、アジア地域全体を見渡した場合に望むべき姿とは必ずしも一致しないケースもある。インフラ整備の経済効果を最大限に引き出すためにも、各国とも十分な議論や調整が必要になってくる。

克服すべき問題は多いが、シームレスアジア構想は極めて重要で、日本も積極的に参加していくべきものである。欧州地域は、空港や道路の交通インフラが整備されていることで、欧州域内の何処の国に住んでいたとしても、それ程の労力をかけずに、他の国へ移動することができ、また、時間や予算に応じて、鉄道、飛行機、船等様々な移動を楽しむオプションが充実している。欧州域内を移動した場合、何ヶ国も行ったということになるが、実際には、それ程の労力を使っているわけではない。一方で、アジア地域と言えば、欧州地域ほどには、域内のお互いの国々が近いと感じることはない。アジアでも、欧州のように、日帰り出張できるような国が増えれば、域内の一体感をより強めることができるが、それには、やはりインフラ整備が必要なのである。

欧州のように、ロンドンからイタリア、スイス、スペインと自由自在に、飛行機、鉄道、船でいけるような環境を、早急に、アジアでも整えるべきだ。東京からバンコク、ハノイ、ジャカルタ等に、飛行機、鉄道、船、何でも自分が望むようなスタイルでストレス無く移動できる世界が早く実現してほしいものである。今後、シームレスアジア構想に関しては、多大なる関心、期待を持って注目していきたい。


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