WTIと北海ブレントの価格差で中東情勢をみる

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2011年03月23日

  • 濱口 政己
原油価格100ドル時代が再来した。価格高騰の主要因は供給懸念である。昨年12月にチュニジアで起こったジャスミン革命を発端とし、エジプトでも長期独裁政権が終焉を迎えた。中東・北アフリカで広がる反政府運動は、リビア、バーレーンなどへも波及しており長期化が必至である。原油については、リビア情勢が緊迫の度合いを増すなかで供給減に対する「懸念」が「現実」となった。価格は今後も高止まりするだけでなく、2008年時の最高値更新が意識される展開が考えられよう。

最高値の更新は、サウジアラビアでの原油生産や輸出に支障をきたす事態が発生するかが鍵となろう。ただし、市場はその可能性を今のところ低いとみているかもしれない。その理由をWTI価格に注目して述べたい。今回の原油高騰で価格水準と同時に注目されているのが、WTIと北海ブレントの価格差である。これまではガソリンや軽油がより多く精製されるWTIが北海ブレントの価格を上回ることが通常であった。

しかし、2月半ばの状況をみると、逆に北海ブレントの価格(1バレルあたり)の方がWTIを20ドル近く上回っていた。直近(3月17日)もその差が10ドル以上ある。この価格差の逆転関係は、じつは昨年8月中旬から常態化していた。多く指摘されるところだが、その根本的な要因は米国内の高い在庫水準に求められよう。

そうはいっても、国際的な原油の間で価格裁定がある程度は働いても良さそうである。しかるに冒頭に述べた混乱による供給懸念が即座にWTI価格に波及しないのは、米国の原油輸入における中東依存度が低いことが理由付けになりそうである。ただしサウジアラビアは別である。リビアからの原油輸入量は1%に満たないが、サウジアラビアからの輸入割合は2010年で12%程度になる。ということは、米国内の在庫水準が高いなかでWTIが相対的に上昇し、北海ブレントとの価格差が急速に縮まるのは、サウジアラビアへの混乱波及懸念が急速に高まるケースではないだろうか。

今のところ、その結果として米国でも原油供給が懸念される事態になる可能性は低いと判断されていることになるのだろう。

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