輸入インフレで遠のくデフレ脱却
2011年03月07日
国際商品市況の高騰が続いている。原油価格はWTI先物期近物で1バレル100ドル前後と、08年7月の過去最高値の7割程度まで上昇している。また、原油に限らず、金属、食料・油脂などの価格も上昇しており、総合的な商品価格指数であるCRB先物指数は、08年7月の過去最高値の8割弱まで上昇している。
その背景には、(1)新興国を中心とする世界経済の成長、(2)先進国の金融緩和で生じた過剰流動性の影響、(3)中東・北アフリカでの地政学的リスクの高まりがある。大局的に見れば(1)の影響が大きいだろう。今なお、原油価格は世界の鉱工業生産の増加に沿った上昇となっているからだ。ただ、ここ数週間は(3)の要因が強まっている。また、ブラジルなど資本流入規制を取る新興国が増え、マネーの行き場が狭まる中、いつ(2)の要因が強まるとも知れない状況にある。
さて、(1)のように世界経済の成長を背景に資源価格が上昇している場合には、日本企業はたとえ輸入原材料コストが上昇し収益を圧迫しても、それを輸出物価に転嫁したり、輸出数量を増やすなどして吸収できる。過去も資源高の局面は経常増益率がむしろ加速してきた。しかし、そういう状況にあっても、内需向け産業や家計部門ではそれほど楽観できないかもしれない。食料品やガソリンに絡む企業の利益率は高くなく、国際商品市況の上昇をすでに消費者段階に転嫁し始めている。こうしたコストプッシュ型のインフレ圧力は消費者物価の動きに明確に表れている。消費者物価指数を、購入頻度別に分けると、食料やガソリンなど年間9回以上購入するモノは急上昇している一方、遊興費や衣類など9回未満のモノは急低下している(右図)。購入頻度の高い品目の物価上昇は、家計に強く認識されるため消費者マインドを冷やしやすい。また、消費者物価指数を生活必需品を多く含む基礎的支出品目と不要不急のものを多く含む選択的支出品目に分けても同様の傾向がある(左図)。値上がりで生活必需品への出費がかさむせいで、生活にゆとりをもたらすような選択的支出品目を節約せざるを得ない状況が見え隠れしている。
商品市況の高騰による輸入インフレで家計の購買力がそがれ、また、それを強く認識し、さらに生活のゆとりをなくすような状況では、個人消費が活発化して消費者物価が上昇するような、正常なデフレ脱却の道は遠のくことになる。また、上記(2)、(3)の要因が今以上に強まれば、家計の苦しさが増すばかりか、企業の体力も限界を迎え、デフレに拍車をかけることになるだろう。

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