健康保険組合の創意工夫に期待

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2011年03月02日

  • 中野 充弘
日本の医療費は約35兆円(平成20年度)で前年度比2%増加した。国民一人当たりでみると年間27.3万円で、年齢別では65歳未満の平均が15.9万円に対し、65歳以上は67.3万円と約4倍強となっている。年をとると医療費が増えていくのは当然のこととはいえ、今後の日本の高齢化スピードを考えると、医療費増加を抑える対策は急がねばならない。なぜならば65歳以上の人口は2010年2,941万人から2020年に3,590万人、2030年に3,667万人、2040年に3,853万人と、これから一段と増加していく見通しだからだ(国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口、平成18年12月)。加えて医療技術の進歩なども予想されることから、このままでは医療費の大幅増加は避けられそうにない。

そこで、数年前から予防医療が注目されるようになった。つまり怪我や病気を治すことが従来の医療の役割とすれば、これからは病気になる人を減らし将来のコスト削減をめざすという取組みである。平成20年度から開始された医療制度改革で、生活習慣病対策の推進がスタートした。具体的には医療保険者(主に以下の4つに代表される:「市町村国保」・・・自営業者・無職等が中心で加入者数3,600万人、「協会けんぽ」・・・中小企業のサラリーマンが中心で加入者数3,500万人、「健保組合」・・・主に大企業のサラリーマンで加入者数3,000万人、「共済組合」・・・公務員や教職員で加入者数900万人)に対し、40~74歳の被保険者・被扶養者に対する生活習慣病の予防に着目した特定健康診査・特定保健指導の実施が義務付けられた。いわゆる「メタボ健診」である。今年は20年度を初年度とする医療費適正化計画(平成20~24年度の5年間)の中間評価・公表が行われ、5~6月には特定健診・保健指導の保険者における取組みのアンケート調査も実施される予定だ。

今年1月に発表された「平成21年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(速報値)について」によれば、平成21年度の特定健康診査の実施率は40.5%(前年度38.9%)であった。ところが保険者別実施率をみると健保組合が63.3%、共済組合が65.4%と高く、市町村国保31.4%、協会けんぽ30.3%と両者に大きな差がついてしまった。この二極化をどのように見ればよいのだろうか。

最近の一部論調では、裕福な健保組合や共済組合に相応の負担をしてもらい、医療費負担の平準化を目指すべきだとの声も聞かれる。いわば「カネのあるところから取れ」との発想である。しかし、それでは保険者の創意工夫の意欲を摘むことになりかねない。重要なことは「無駄を温存したままの平準化」ではなく、「成果を競い合うことで医療費適正化へのチャレンジを促す」ことではないか。いくつかの成功例が出てくれば、それが周りに伝わり、結果として全体の医療費削減へとつながる可能性が高い。

特定健診・保健指導が期待通りに医療費削減につながるのかどうか結論付けるには、データが揃うまでまだ少し時間を要するだろう。しかし、個々の健保組合ではかなり成果が出てきたところもあるらしい。どのような工夫をしてきたのか、あるいはこれから何に取り組もうとするのか、医療費抑制に積極果敢にチャレンジしている健保組合をサポートする政策こそが今求められているのではないか。

トップランナーを育て、成功事例を蓄積していくことが、医療費適正化への道につながろう。

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