ネットフリックスが失業率を押し上げる?

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2011年02月24日

  • 成瀬 順也
このところ、米国経済に対して、楽観的な見方が広がっている。確かに、昨年末のホリデー(クリスマス)商戦は好調のうちに終わり、NYダウは上昇を続けている。ただし、米GDPの7割以上を占める個人消費は、全面的に好調な訳ではない。様々な分野で二極化が発生し、明暗分かれる結果となっている。

例えば、高級品と低価格品。ホリデー商戦で良好だったのは高級品である。ディスカウントストアの売上が伸び悩む一方、高級百貨店は急増。ファッションでも、1年前に好調だったエアロポステールなど低価格チェーンが失速する一方、コーチやアバクロンビー&フィッチなど比較的高価格のブランドが復活した。他にも1ドルストア、ファストフードの低迷に、宝飾品、高級化粧品、自然食品の好調など、二極化事例は枚挙に暇がない。

安い物しか売れないと言われた1年前とは様変わり。最大の要因は、オバマ政権の政策転換であろう。2009年1月の政権発足から2年間、低所得者、失業者、住宅ローン延滞者など経済弱者を優遇する姿勢が目立った。しかし、持たざる者へのバラマキだけでは景気回復は続かず、昨秋の中間選挙で大敗。下院は野党共和党に過半数を奪われた。その結果、オバマ政権が主張していた2011年からの富裕層中心の増税(キャピタルゲイン税、配当税、相続税、贈与税、高額所得層の所得税)は白紙撤回。増税を懸念していた富裕層の消費が急回復したのであろう。さらに、株価上昇による資産効果も、高級品消費を押し上げたと見られる。

最近の個人消費の特徴として、もう一つ、オンライン・ショッピングの急増が挙げられる。要因は、携帯デバイスの進歩だろう。スマートフォンやタブレットPCの普及により、自宅や勤務先でパソコンからネットに接続しなくても、手軽にオンライン・ショッピングを楽しめるようになった。今回のホリデー商戦でも、従来型のパソコンはあまり売れず、スマートフォンやタブレットPCが飛ぶように売れている。また、ガソリン価格の上昇を背景に、外出を控えてガソリン代・外食費を倹約し、その分オンライン・ショッピングに使う傾向も強まっているようだ。

米国経済の日本化現象(Japanization)が懸念されているが、消費に関しては随分違うのではないか。同じ倹約でも、貯金をするためではなく、別の消費をするためという意味合いが強いようだ。しかし、オンライン・ショッピングばかりが増加し、実店舗での販売が増えないと、雇用の回復は一段と遅れかねない。昨年、米主要500社(S&P500)中、株価が最も大きく上昇した企業はネットフリックス。当初、インターネットで注文するとレンタルしたいDVDが配送されてくる仕組みだった。それだけでも、実店舗に比べると雇用環境にはマイナスに働きそうだが、今やオンライン上でのストリーミング・サービスが主流となりつつあり、配達員さえ不要になってしまう。便利になるのは良いことだが、技術やサービスの進化が行き過ぎると、景気回復の妨げになるケースもありそうだ。

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