長期的な成長戦略を支えていく起業家教育
2011年02月17日
静岡大学の起業家教育に関連するイベントに参加した。工学系の大学院生18名が4~5名のチームに別れ、4つの研究テーマで起業する計画を発表した。研究している技術の製品化を想定し、潜在的な顧客やユーザーに対して取材を行った上で、グループワークでプレゼンテーションを実施した。
一般に、大学院修士課程の学生が研究成果の事業化を具体的に検討する機会は少ない。詳細な事業計画を作成する過程で、理系の学生が研究室や実験室では通常経験できないような教育的な効果が得られたと考えられる。学生達が一旦は大学や大手メーカーの研究職などに進むことになったとしても、起業するという選択肢を認識させたことは起業家教育の大きな成果と言えよう。
大学(学部)および大学院において、起業家教育の普及が進んでいる。大和総研が経済産業省の委託事業として実施した「起業家教育実態調査」を過去に文部科学省が実施した調査実績と比較すると、起業家教育の実施大学は、過去10年で約2倍に増加している(2000年:139校→2010年:261校)。また、起業家教育の科目数は、過去10年で3.5倍に達している(2000年:330件→2010年:1,141件)。
一方で、国内の起業活動は、景気低迷の長期化を受けて好ましくない状況にある。2009年のGEM(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)調査 によると、起業・創業の活性度合いを示す「起業活動率」は3.3%である。2004年調査の1.5%から上昇してきたが、2008年調査(5.4%)から5年振りに減少に転じた。最近発表された2010年調査でも3.3%と、調査対象全59か国中58番目という下位に低迷している。
内需拡大を迫られる国内においては、創意あるビジネスモデルを生み出す原動力が必要であり、そのためには起業家教育による人材育成が欠かせない。また、激化するアジア各国との市場競争についても、世界レベルで活躍する企業経営者の輩出が強く求められる。
経済活性化や雇用創出につながる新規企業・新規事業の創出は国家的な課題であり、その牽引役となるのが起業家である。起業家教育によって、ベンチャー企業を起こす創業者を増やし、その成功確率も高めることが望まれる。長期的な成長戦略を実践するためにも、起業家教育の重要性は今後もますます高まると予測される。
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