国際社会での存在感低下が日本企業のITにもたらす課題

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2011年02月15日

  • 大嶽 怜
仕事柄ニューヨークのIT系カンファレンスによく出かける。こう言った場であまり日本人を見かけない。IT企業の駐在員から聞いた話では、ニューヨークオフィスの日本人は減少傾向にあるようだ。米国IT企業の日本人駐在員の役割は、現地の日本企業に対するビジネスであることが多い。出張してくる日本人顧客への対応や、日本顧客の要望を米国本社に伝えるといったことも行っているそうだ。このような役割を持つ日本人社員の減少は、グローバル企業内での日本の存在感低下を現しているように思える。

グローバル企業は生き残りをかけて、経営資源の選択と集中を加速している。「2011年は中国アジア事業に注力」と言ったスローガンを掲げるIT企業も多い。この影響を受けてかグローバルなIT企業の中で、日本法人の発言力が弱まっているという話を聞くようになった。製品開発などの場で日本法人を通して伝えられる顧客の要望が、以前より通り難くなったというという声を聞くこともある。

これは、ITを利用するユーザ企業にとって案外深刻な問題である。ITコスト削減の手段として、日本企業はグローバル企業が提供する業務ソフトウェア(パッケージ)を利用してきた。これらのソフトウェアが予め持つ機能をそのまま使うことで企業ごとの開発を無くし、コスト削減ができる。だが、海外のソフトウェアの機能と日本企業の業務との間には、制度の違いなどによる差分がある。この場合、この製品を使う企業は、個社ごとに製品をカスタマイズするか、想定外の業務変更を行う必要がある。一方で日本では、制度や商習慣、企業ごとのローカルルールが多い。これまでは、日本の購買力を武器にソフトウェアの機能を日本の状況に合わせるよう、製品提供側に求めることができた。しかし、現在では中国等の強い購買力や成長力が存在感を持ち、日本の優先度は下がっている。グローバル企業に製品変更を求めても、日本固有の事情に合わせた対応を得ることは難しくなっている。これは日本のユーザ企業に大きな負担となる。

日本が再び中国などを抜き、強い購買力を身につけるのはあまり現実的ではない。日本企業は何らかの対応を考える必要があるだろう。日本の制度に対応した日本製のソフトウェアのみを利用するという選択肢もある。しかし、日本企業が日本のIT企業のみを利用し、IT企業もこれを優先すれば、日本ITのガラパゴス化が進むことにならないだろうか。

日本が長年培ってきた商習慣や制度は、1企業だけでは動かし難い。米国の金融機関では、企業が協同し制度や規制をリードしようとする傾向がある。現在の環境で勝ち残るため、日本でも企業が協同し積極的に商習慣や制度の見直しを行うことが、今まで以上に必要になっているではないだろうか。

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