「D」評価が求める米国インフラ投資

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2011年02月14日

  • 藤井 佑二
近年、企業側の採用抑制により、大学生の就職事情が厳しい。2011年3月卒業予定の大学生では、就職内定率が68.8%(12月1日時点)と、調査を開始した96年以降で最低水準を記録した(文部科学省、厚生労働省調査)。この結果、大学生の就職活動は、長期化しており、学業への支障が懸念されている。就職活動と学業の両立は、困難なことであるが、就職できても学業の成績評価が低く卒業できないことがないよう願うばかりである。ところで、学業の成績評価では、近年米国のGPA を採用する事例が日本でも増えているが、その米国で過去10年超に亘り、下から2番目に低い「D(Poor)」評価を受けているものが存在する。それが、米国のインフラストラクチャー(以下インフラ)である。

全米土木学会が実施する全米のインフラ整備の動向に関する調査では、米国のインフラは、98年以降、道路や水関連を中心に全体平均で「D」評価が続いており、インフラの質の悪さが、長い間指摘されている。例えば、09年の調査では、米国の主要道路では、三分の一に相当する道路が整備不十分にあり、米国人は年間42億時間を道路渋滞に費やし、毎年782億ドルにも上る経済的損失が発生していることが指摘されている。また、飲料水を提供する設備は、耐用年数の上限に近づいている設備が多く、一日に推定70億ガロン(265億リットル、1ガロン=3.785リットル)もの水漏れが発生。下水道でも、状況は同様であり、毎年数十億ガロンもの未処理の下水が、地表の水に流されているとされる。また、米国に存在するダムは、平均でみると、建築後51年が経過し、4,000箇所以上が何らかの欠陥があり、この内1,819箇所が特に危険なダムと診断されているなど、多くのインフラで老朽化が深刻な問題となっている。

米国のインフラ整備は、現在州政府や連邦政府が中心となって行っているが、中長期的に社会保障費や医療保険による負担増加で、政府ではインフラ整備のための資金的余裕がなくなると予想されるため、民間資金を使ったインフラ整備が強く求められている。前述した全米土木学会の調査では、米国におけるインフラの状態を、「D」から上から2番目に高い「B(Good)」評価に引き上げるためには、今後5年間に亘り実質で2.1兆ドルを投資する必要があると試算しているが、この内、半分超に当たる1.2兆ドルが不足する見通しである。州政府の一部では、有料道路や駐車場の営業権を売却し、長期に亘り民間に委託する事例が出てくるなど、実際にインフラ事業の運営を民間に委託する動きは徐々に増えている。米国では、需要増加と老朽化により、インフラ整備不足が今後更に深刻になると予想され、学業でいえば落第に当る「F」評価にならないためにも、年金基金やインフラファンドなど民間資金を使い、インフラ整備を実施していくことが中長期的により重要になっていくだろう。


(※注)Grade Point Averageの略称。米国等の大学で一般的に採用されている成績評価システム。「A(優)」、「B(良)」、「C(可)」、「D(準可)」、「F(不可)」のアルファベットを用いて5段階で評価する。

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