中国の鉄道建設の拡大により高まる「地域開発・まちづくり」の重要性

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2011年02月02日

  • 横塚 仁士
中国では鉄道建設が国家戦略のもとで飛躍的なスピードで進んでいる。中国内の報道によると、2010年、2011年と2年連続で約7,000億元(約8.8兆円)が投じられる見通しで、総路線長は2010年時点で9万kmに達したもようである。また、中国鉄道部の劉志軍部長は1月4日に開かれた全国鉄道工作会議の席上で、鉄道の総距離を12万km以上に延長する目標を5年前倒しし、2015年に達成する計画であることを明らかにした。(※1)

地下鉄などの軌道交通についても北京や上海、広州などの沿岸部の都市圏だけでなく、内陸部でも建設計画が持ち上がっており、既に33都市で地下鉄・軌道交通の建設計画が立てられているという。(※2)

鉄道は経済発展に伴う都市内部や都市間の移動に対する需要増や、主要なエネルギー源である石炭の国内輸送という面に加え、雇用の大規模な創出が見込める公共投資としても重要性が高い。(※3)そのため、今後も高速鉄道や軌道交通を中心に関連インフラの建設が加速するであろう。

中国の鉄道建設ラッシュでは、莫大な費用を負担する政府の債務増加など幾つかの問題が指摘されている。中でも、各交通インフラの主管官庁が鉄道部や国家発展改革委員会、交通運輸部などに分かれ一元化していないため、体系的な交通システムが確立しにくい現状は、都市化が急速に進む中国の発展のあり方を考える上で解決すべき重要な課題であると思われる。

このような課題に関して筆者が注目しているニュースが2点ある。1点目は2011年からの第12次5カ年計画において、上述の各官庁が連携して総合交通運輸システムの確立を目指し、36の主要都市において近代化された総合旅客輸送ネットワークを実現するプランが浮上していることである。(※4)

2点目は、広東省内に位置する経済特区であり多くの外資系企業が進出している深圳市が交通運輸部と2010年11月に交わした「国家公共交通都市モデル地区」の建設に関する取り決めである。同市では軌道交通を中心とする公共交通指向型の都市づくりが進められ、関連するインフラの建設や法整備、政策が実施される見通しである。

中国は鉄道、軌道交通ともに世界有数の規模に達しているが、建設に重点が置かれ、都市の発展やまちづくりを考慮した形で建設が進められるケースは少ない。都市化が着実に進展している中国では、いかに「住みやすく、移動しやすい」都市を形成するかが今後重要になるため、これらの動向は中国の都市開発のあり方に影響を与えると思われる。

また、このような状況を考慮すると、駅部周辺の不動産・商業開発、交通体系の整備など沿線開発やまちづくりに関して日本が有する経験やノウハウが生かせると思われる。都市開発という側面では日本の強みが生かせる分野も多く、アプローチの仕方では日本企業にとって有望なチャンスになる可能性もあると考えられる。

(※1)21世紀経済報道ウェブサイトの2011年1月4日付記事より。
(※2)第一財経ウェブサイトの2010年12月8日付記事より。
(※3)中国鉄道部の王勇平報道官は2008年11月の記者会見で、2009年の鉄道建設プロジェクトの実施により約600万人の雇用増加が見込まれるとコメントしている。
(※4)注釈1に同じ。

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