サービスロボットは本当に普及するのか

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2011年01月12日

  • 水上 貴史
国際標準化機構(ISO)では、日本で言うサービスロボットに該当する「パーソナルケアロボット(personal care robot)」の安全性規格の策定が進んでいる。予定通りに進めば、2011年秋から2012年初め頃には発行される予定。基準作りでは日本の技術者も参加しており、日本側の意見が多く取り入れられる模様である。この安全性規格が出来れば、国際的にも統一が図られ、国内でもサービスロボットの時代がいよいよ到来するのではないかと期待されている。果たしてそうなるのだろうか。

日本でサービスロボットが初めて広く注目されたのは、2005年の愛知万博「愛・地球博」であった。ショーとしてロボットを登場させるだけでなく、清掃、警備、接客、案内などの会場業務の中にもロボットが導入された。ロボットが活躍する背景には、国家プロジェクトとして成果を披露する目的もあった。経済産業省の関連機関が実施する「次世代ロボット実用化プロジェクト」(2004年度、2005年度にNEDO技術開発機構が実施)の成果発表の場として万博会場が指定され、運用・デモンストレーションが行われていた。

この万博を境に、ホンダの「ASIMO(アシモ)」や村田製作所の「ムラタセイサク君」など、テレビのコマーシャルでもロボットが多く起用されるようになった。今では、映画やアニメとはまた違う“リアルなロボットのイメージ”が確立されたことは確かである。しかし、一部のアミューズメントパークや、百貨店でのイベント展示等を除いて、身の回りにロボットを見る機会はいまだに得られていない。唯一、ロボットとして認知され身近に感じるのは、広告や懸賞などでも目にする自動掃除機「ルンバ」ぐらいであろう。

2010年10月、ルンバを提供している米国アイロボット(iRobot)社より、創業メンバーでCEOのコリン・アングル氏が来日し、東京都内で講演を行った。会場との質疑応答の際、「なぜ日本ではロボットが上手く普及しないのか、そしてアイロボット社の成功の秘訣は何か」という質問があった。同氏の回答は以下の通りである。「日本では鉄腕アトムのようなロボットのイメージが根付いており、人間みたいな高度なロボットを作ることを目標にしているのではないか。我々はそうではなく、最初からビジネスになるようなロボットを作っている。」

コリン氏が指摘したかったのは、「日本は技術レベルでは世界トップレベルにあるかもしれないが、ロボットに対するビジネスモデルが確立できておらず、現状では研究開発の成果がビジネスに上手く結びついていない」というということであろう。日本の現状の本質をついた回答といえる。

では、日本では将来的にはサービスロボットの普及が難しい状況にあるのだろうか。日本が得意とする工場や倉庫で活躍する産業用ロボットに目を向ければ、今でも改良が進み、進化し続けている。近年では、人でなければ難しい作業領域にもロボットを導入しようと果敢に取り組まれており、人間に近い器用な動き、複雑な動きができるロボットも開発されている。ロボットショーやテレビのコマーシャルに取り上げられるものではないが、もっとこの産業用途の次世代ロボットに注目することが重要ではないだろうか。明確な目的を持って作られたロボットであれば、日常生活の場面でも応用の糸口が見えてくるかもしれない。産業用ロボットでの優位性を活かしたサービスロボットの開発によって、日本のロボットメーカーが世界市場を開拓していくことを期待したい。

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