組織のリスクとガバナンス

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2010年11月16日

  • 藤永 恭夫
中国漁船衝突事件のビデオ映像流出問題で内閣は内政及び外交で厳しい対応を余儀なくされている。国会議員でさえ、限定した形でしか視聴できなかった機密情報の漏洩は、行政組織の情報管理の甘さが露呈した感があり深刻な課題である。事件当初よりビデオ公開の是非が問われていたが、皮肉にも公開以前に事実上、衆目の知りえる事実となった。警視庁は自ら情報流出者と名乗り出た海上保安官に対し国家公務員法の守秘義務違反の容疑で事情聴取を始めている。10月の国際テロの捜査情報の流出も相まって、世論から内閣はガバナンスの欠如、リスク管理能力の不足等と批判を受けている。この種の事件及び不祥事が起こるたびに、「情報管理のあり方」が問われ、今回の件では首相の指示で情報管理の強化のための検討委員会の新設が予定されている。効率的な検討のために、政権交代、大臣の交代等の理由はあろうが有益な過去の提言を宝の持ち腐れとしないよう活用してほしい。

ネット社会へ対応するリスクの抽出と共に、議論の大きな前提条件となる公的組織のガバナンスのあり方を見直すことが重要である。これには、民間企業の例に倣い、コーポレートガバナンス、内部統制の整備を参考とするとよい。特にガバナンス(監督)とマネジメント(執行)の役割分担、責任問題は、政治主導のあり方にも示唆を与えるものである。国会で議論となっている担当大臣の役割、責任も自ずから明確になるであろう。最近では、企業は情報公開を進め、ホームページ等で、経営理念、コーポレートガバナンス、コンプライアンス等に関する方針を開示している。特に東芝、ソニーなどガバナンスの整備が進んでいる企業の事例はベストプラクティスである。

ガバナンスとマネジメントの区別は混乱しやすい。組織の意思決定の仕組みに欠陥があるものはガバナンスの問題、仕組みとは別に経営者・管理者の判断ミスで不祥事が起きたときなどはマネジメントの問題と考えると分かりやすい。今回のビデオ映像の流出は管理者責任のマネジメントの問題とだけは言いにくい。映像の取り扱いに関して担当大臣の指示は外交上の微妙な問題等で変更された様子であり、取り扱いの仕方についての現場サイドとの意識のギャップが埋まらないままにことが進められた感が否めない。大臣の意図した管理とならなかったのはガバナンスに大きな改善の余地があることを示唆する。組織のガバナンスは、長年培った組織の風土のとかみ合ってこそ機能するものであり、組織構成員の意識とともに整備されるものと考える。

世論には、ビデオ映像の流出者を「知る権利」の内部告発者として心情的に擁護する意見も多い。しかし、組織運営の面からみればルール違反は明確であろう。常に、「誰が」、「何を」、「何のために」を検討し、組織運営を考えることが、組織の構成員のとるべき行動を教えてくれる。繰り返しになるが、組織のとりわけ国のあり方の舵をとる、公的機関のガバナンスの再構築はリスク管理上も重要な点と言えよう。

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