商習慣の違いが生む稼働率100%の情報システム
2010年11月09日
稼働率100%、止まらない情報システムを提供するというクラウドサービスが出てきている。最近のクラウドブームに伴う技術革新を受け、ここ数年でクラウドサービスの稼働率は急速に向上した。米国では、稼働率100%の品質保証(SLA)をサービスメニューに加える事業者すら出ている。安価なクラウドサービスで、信頼性の高いシステムを利用できる。投資余力のない企業にとっては魅力的な話である。しかし、単純に稼働率100%と聞くと胡散臭さも感じる。どんなにコストをかけ最新の技術を使っても、100%など不可能と考える技術者も多いだろう。この「稼働率100%」という言葉が与える違和感は、日本と米国との商習慣の違いを強く現しているように感じる。
日本に比べ、米国では大手企業が違反を指摘され、罰金や和解金を支払ったという記事を眼にすることが多い。大騒ぎになったニュースばかりが日本に届くため誤解があるかもしれないが、実際はほとんどのケースで世論は反応しない。日本のように企業の品格が厳しく問われ、連日メディアで取り上げられることはまれである。この日米の違いは、先述の稼働率100%に対する考え方にも大きく反映されている。
日本で従来からシステム開発・運用現場で使われてきた稼働率という言葉には、絶対守るべき値というニュアンスが含まれていることが多い。問題の発覚により稼働率が保たれない恐れがあれば、システム開発側の費用で対応するという事例を聞くことも少なくない。
一方で、クラウドサービスで一般に使われる稼働率の品質保証の考え方はこれとは異なる。米国企業が主導し、世界中から利用されるクラウドサービスは、米国の商習慣の影響を強く受けている。ここでは、稼働率自体の値だけではなく、それが達成できなかった時にサービス事業者が負うペナルティも重視される。実際、米国のクラウド導入事例を聞くと、契約時にはこの取り決めについても厳しく交渉している。だが、現在一般に提供されているクラウドサービスのペナルティは、一定期間料金が無料になるといった程度のものが多い。これは、高い信頼性が必要なシステムが停止する影響を考えると割に合わない。また、利用者に稼働率が保証レベルに満たないことを証明させるものも多く、ペナルティを受け取ること自体が困難な場合もある。
クラウドサービスが示す稼働率は、本当に自社が求めているものだろうか。クラウドサービスは、一見簡単に使い始めることができる。だが、インターネットを通して提供されるサービスは、知らないうちに日本になじみの薄い商習慣を持ち込む場合がある。稼働率のSLAという用語に限った話ではない。商習慣の違いから生まれる言葉の解釈の違いは、思わぬ問題を引き起こすことが多い。だが、現在のグローバル化の流れをみれば、このような問題を避け続けることも難しくなっている。今後はシステムに携わる人間にも、各国の商習慣の違いを理解し、戦略的に取り込んでいく姿勢が必要になるのではないだろうか。
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