JPモルガン・チェースのCEOの「株主への手紙」

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2010年10月29日

  • 木村 浩一
 「20世紀最高の経営者」と言われたGEのCEOジャック・ウェルチに代表されるように、アメリカ企業のCEOが書くアニュアル・レポートの「株主への手紙」には、株主以外の一般人にも読ませる内容のものが多い。当代で言えば、JPモルガン・チェースのCEOジェームズ・ダイモンであろうか。

今年発表された2009年版のアニュアル・レポートでは、
「怒りや人気取りのために銀行に対する規制を変更すると、それは間違った解決となり、将来の経済成長を妨げることになります。」
「金融機関のなかで最も責められるべきものはすでに姿を消したことを確認しておくべきです。」
「私は多くの銀行の立場を代弁することを承知のうえで申し上げますが、不良資産救済プログラム(「TARP」)による資本注入を受け入れた銀行の中には、生き残るためにそうした資金が必要だったのではなく、国と経済の回復のために資本注入の受け入れが正しいことだと考えた銀行もあったのです。」
「弊社が規制当局と政治家にお願いしたいのは、明瞭さと目的をもって議論を進め、無謀な企業も慎重な企業もひっくるめて、すべての企業に広く不利益をもたらすことのないようにしていただきたいということです。」
と率直に語り、注目を浴びた。

JPモルガン・チェースとバンク・ワンの合併に伴い、バンク・ワンのCEOからJPモルガン・チェースのCEOに転じたダイモン氏の毎年の「株主への手紙」を読むと、人材育成の重要性に対するコミットメントと人材育成・獲得のために必要な適切な報酬方針(リーマン・ショック後、ウォール街の高報酬に対する批判が高まる前から)、社員への感謝、が一貫して語られている。

18万人の社員の内、14万人が株主(2007年版アニュアル・レポート)という同社において、「株主への手紙」は、同時に「社員への手紙」にもなっているが、例えば、2008年の金融危機の嵐の中で行われたベアー・スターンズとワシントン・ミューチュアルの買収に際しての社員の献身的な働きを讃えている(2008年版アニュアル・レポート)。

一方、日本を代表する国際的企業のアニュアル・レポートを読むと、人材育成については1行も書かれていない一方、いかに人員削減を進めているかを述べ、社員をコストとしかみていない企業もある。

ダイモンCEOは、2009年版のアニュアル・レポートの冒頭で、JPモルガン・チェースが経済危機を乗り越えられたことは、「社員の資質と献身がひとつの大きな力に結実した証です。2008年初めの大混乱が起き始めたときから、社員の多くが昼夜を徹し、24時間365日、何ヵ月もの間休みなく働き続けてくれたのです。」と述べ、アニュアル・レポートの末尾は、「JPモルガン・チェースとその経営陣および株主の皆様に代わり、私は社員に心からの感謝を伝えます。私は、社員と一緒に働けることを誇りに思います。」と結んでいる。ここまで率直に社員に語る経営者は少ないだろう。

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