日本の成長戦略における「官民パートナーシップ(PPP)」 の役割と課題

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2010年10月12日

  • 加藤 三朋
90年代以降、先進国では交通・水道等のインフラをはじめとする公共サービスの領域で「官民パートナーシップ(PPP)」の重要性が認識され、積極的な取組みが進んできた。日本も世界の趨勢からはやや遅れたものの、99年のPFI法の施行を契機に法整備が進むとともに民間企業の公共サービス参入のバリエーションは一気に拡大している。

そもそもPPPとは何か。簡単に言えば「官民間の適切なリスク・リターン配分」を前提とする公共サービス手法である。官の立場からは「民間の優れた技術・サービスやコスト・リスク負担に依存することにより、伝統的手法(公共サービスの直接供給)に比べて少ない負担で公共サービスを調達・供給できる」メリットがある。一方、民間企業にとっては「公共サービスへの参入障壁の緩和により事業開拓の可能性が広がる」ことを意味する。

こうした官・民それぞれのメリットが典型的にあらわれる分野は整備・運営に巨額の財政資金が必要となるインフラ分野である。この間の世界的なPPPブームの背景として、政府部門における財源制約問題が大きな推進力となった点は見逃せない。政府部門が直面してきた課題は「厳しい財源制約の下、インフラ新設や安全性・効率性の改善等の国民ニーズへの対応をいかに円滑に進めるか」という点である。無論、国民生活に必須の極めて公共性の高いインフラの整備を「財源不足を理由に回避する」選択肢は政府部門にはない。こうした政策ジレンマの解決策として選択されたのがPPPである。

日本版PFIでは代表的スキームとしてBTO(Build-Transfer-Operate;施工・所有権移転・運営)、BOT(Build-Operate-Transfer;施工・運営・所有権移転)等が活用されてきたが、日本の公共サービス市場におけるPPPの普及は実際にはより広範囲にわたる。例えば、2000年代の都市再生に活用されたTOD(公共交通指向型開発スキーム)による鉄道駅周辺の商業・宅地開発も一つのPPP事例であろう。こうした実情を日本の民営化モデルの変化という側面からみると、株式会社化や事業譲渡等を主体とする従来の方向から、“よりソフトな民営化”であるPPPモデルへと事実上シフトしているといえる。

PFI法施行当時と比べて国・地方の財政状況がさらに厳しさを増している中、PPPの重要性がわが国で一段と高まるのは確実である。特に、国・地方が対応すべき大きな課題に浮上しているのは公的施設の更新投資への対応である。国土交通省によれば、2060年度までに必要なインフラ等の社会資本の更新投資は約190兆円にのぼり、従前の公共投資方式では2037年度に維持管理・更新が持続不可能と試算されている。

実は、日本では、他の先進国に比べるとインフラ分野のPPPの実績は遥かに劣るのがこれまでの実情である。しかし、今年の上半期、民主党政権のもとで国家戦略が策定され、その中で、インフラ分野におけるPPPの活用拡大が目標の一つに掲げられている。この方向性は今後の日本の成長戦略の中でも重要な要素と位置づけられる。これまでのPFI法では、実現不可能だったコンセッション方式の導入も含めて、関連する制度改革、規制緩和の実施を通じて、より使い勝手のよいPPPスキームの実現を期待したい。

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