円売り介入をどう見るか?

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2010年09月30日

  • 野間口 毅
政府・日銀が6年半ぶりの円売り介入に踏み切った。また、日銀は市場に供給される円資金を放置する(「非不胎化」する)方針を固めた。さらに、日銀は9/29に発表される日銀短観を踏まえて、10/4~5の金融政策決定会合で追加金融緩和策を打ち出す可能性もあると伝えられている。昨年12月に日銀が新型オペの導入を決めた局面ではCME投機筋の円買いポジションが巻き戻され、円/ドルは11月末の高値86円台から1月上旬の安値93円台まで約7円の円安が進行した。それを今回の局面に当てはめれば、円/ドルは9月半ばの高値約83円から10月にかけて90円程度まで円安が進行し、その場合の日経平均は1万円台を回復する可能性もあろう。なお、6月調査の日銀短観によると大企業・製造業の想定為替レートは2010年度下期平均で90.16円/ドルである。

日本政府が前回2003~04年に単独で合計35兆円の円売り介入を実施した局面では、結果的に円高に歯止めをかけることは出来なかった。ただし、当時は米FF金利が過去最低まで下がり、日本ではデフレが深刻化していた局面で、ドル安・円高が進んだのは当然である。35兆円の円売り介入は円高のスピードを和らげる「スムージング介入」だったと見るべきだろう。当時の円売り介入は2004年3月まで続いたが、それ以降結果的に介入する必要がなくなったのは、翌4月に発表された米雇用統計が大幅に改善したことによってFRBの利上げ観測が急速に高まり、FRBは実際に6月末から利上げを開始したからでもある。今回の円売り介入も基本的には米国の雇用が回復して金融緩和の出口が見えるまでのドル安・円高圧力を和らげる「スムージング介入」と考えられる。

問題は米国の雇用回復が遠いか?近いか?である。9/24にプリンストン大学で講演したFRBのバーナンキ議長は「政策を総動員しているのに、失業率低下につながるほどの景気回復に至っていない」と、これまでの金融緩和が雇用改善に結びついていない現実を認めたという。実際に米雇用統計の非農業部門雇用者数は8月まで前月比で3カ月連続減少している。ただし、複数のエコノミストは次回10/8に発表される9月の雇用統計で非農業部門雇用者数が小幅ながらも4カ月ぶりに増加に転じると予想している。非農業部門雇用者数の先行指標となる米コンファレンスボードが発表する雇用トレンド指数を見ても、非農業部門雇用者数は年末にかけて増加する可能性があると考えられる。米国の雇用回復は意外と近い可能性があり、それは日本の円売り介入が前回ほど長期化しないことを意味していよう。

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