日本経済の教訓

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2010年09月07日

  • 小林 卓典
考えようによっては、日本は大いに世界の役に立っている。住宅不動産市場のバブル崩壊に見舞われた国、あるいはバブル崩壊の恐れがある国にとって、日本ほど反面教師としてふさわしい国はないからだ。

このところ米国経済の日本化が話題に上る。住宅バブル崩壊の傷が完全に癒えないままデフレに陥ることになれば、景気停滞が長期化する恐れがある。日本の失われた10数年が米国で再現することを避けるためには、量的緩和をさらに大胆に推し進める必要がある。実際に米国の政策当局はそうしている。

一方、中国は住宅不動産価格の抑制が重要な政策課題となっている。本来なら利上げを行いたいところだが、金利上昇は投機資金の流入を招いてマネーと為替レートのコントロールを難しくする。焦点は人民元の上昇をどこまで許容できるかという点にあるから、人民元を大幅に切り上げるか、あるいは人民元の変動幅を拡大すべきとの批判が海外から強まることになる。しかし中国の政策当局はそうしてはこなかった。人民元の上昇が行き過ぎれば、輸出産業を疲弊させ、経済成長を低下させることにつながるからである。これは85年のプラザ合意以降の日本経済の経験を見れば明らかである。

一方、世界に貴重な教訓を与えてきた日本の状況は思わしくない。円高が企業業績を圧迫し、景気回復のスピードが鈍り始めている。企業は国内よりも海外で設備投資を拡大させている。これは国内市場の衰退と円高という条件の下では合理的な行動だが、国内の雇用回復は遅れ、デフレからの脱却はいっそう困難になる。

このまま円高に耐えて、輸出主導から内需主導への強制的な産業構造の転換を図るという壮大な実験を続けることも選択肢の一つだ。しかしその結末を再び世界に貴重な経験として伝える余裕はないだろう。政策当局が避けるべきことは、万策尽きて、もはやお手上げと見なされることである。特に金融政策にはまだ行うべきことは沢山あるはずだ。

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