意外に条件厳しい日本の中国人個人観光ビザ

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2010年08月26日

  • 杉下 亮太
日本では今年の7月から中国人個人観光ビザの発給条件が緩和され、中国人観光客の一段の増加が期待されている。しかし、現在の段階では個人観光ビザの取得は見かけ以上に難しいのが実情のようである。

中国人向け個人観光ビザが発給されるようになったのは、2009年7月のことである。それまでの観光ビザは団体旅行のみであった。個人観光ビザが解禁されたとはいうものの、当初は年収25万元(現在のレートで約310万円)以上の個人が対象で、現実的にはごく限られた層しか取得できなかった。それが今回の緩和によって年収制限が6万元(74万円)まで引き下げられ、日本への個人観光は中国の中間層にも手が届くようになったといわれている。

ところが実際には年収が6万元以上あるというだけでは、なかなか個人観光ビザは取得できないようだ。中国の個人が観光ビザを申請する場合、日本の領事館に直接出向くのではなく、指定された旅行社を通じて行なうことになっている。個人観光ビザの申請条件は旅行社によって多少差がある。ある上海の旅行社は、日本行き個人観光ビザの申請条件として、年収は6万元以上ではなく10万元(約124万円)以上であることを挙げている。20万元(約248万円)以上が望ましいと回答する旅行社もあるようだ。

また、10万元以上という年収の下限だけではなく、自分名義の不動産を保有しているか、10万元以上の銀行預金を持っている、自動車を保有している、一定額以上の株式など金融資産があるといった条件のいずれかを満たすことも求めるケースがある。

さらに、旅行社は10万元の保証金を入れることも個人観光ビザ申請の条件としている。夫婦で申請する場合は20万元の保証金が必要となる。旅程通りに帰国しない場合、この保証金は返還されないことになっている。

以上の条件を満たせば、個人観光ビザ取得の可能性は高いようだ。しかしながら、これは要するに10万元以上の年収と10万元以上の手元預金がないと、個人観光ビザを取得できないということである。結局、個人での観光旅行は比較的裕福な層にまだ限られており、4億人といわれる中間層に対して全面的に門戸を開いたわけではない。日本への中国人観光客は大幅な増加を見せているが、当面は団体旅行の観光客が大半だろう。実際、条件が緩和された7月に、中国人向け個人観光ビザ発給数は大きく増えたとはいうものの8,000件あまりの模様で、中国人観光客数の1割未満にとどまっている。

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