高齢社会はこれから始まる
2010年07月01日
高齢社会に備えて消費税の増税が必要だと言われている。7月11日の参院選後にすぐ引き上げるというわけではないが、これが一つの争点にもなっている。
しかし、高齢化はこれから始まる。2010年の全人口に占める65歳以上の高齢者の比率(高齢人口比率)は23.1%だが、2030年には31.8%に、2050年には39.6%に上る(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(2006年12月推計)」の中位推計)。すると、今、消費税を上げて、今、高齢者に配ってしまっては、将来の高齢者には配るお金はなくなってしまう。
高齢者に対して、高齢者以外の人に課税して、高齢者以外の人の半分の所得を保障するとしよう。途中の計算式は注に示すが、2010年では15.0%の課税で良いが、2030年には23.3%の課税、2050年には32.8%の課税が必要となる。すなわち、2010年から2030年で8.3%ポイントの税率上昇、2030年から2050年でさらに9.5%ポイントの税率上昇が必要となる。
高齢者を含むすべての人に課税すれば、税率上昇の程度は、2010年から2030年で4.35%ポイントの税率上昇、2030年から2050年でさらに3.9%ポイントの税率上昇ですむ。しかし、これは高齢者へも課税して、所得保障の水準を下げているからである。
これまで、1989年に消費税を導入したとき、1997年に消費税を引き上げたときには、年金を消費税による物価上昇分だけ引き上げた。実質的に、高齢者は消費税を負担していないのである。消費税論議が盛んになるのは結構だが、最終的にどこまで高齢者の所得、医療、介護を保障するのか、消費税を引き上げたとき、その分、年金を引き上げるのかどうかを明らかにしないと、意味のない議論をしていることになる。
私は、「人口減少は怖くないが、高齢化は怖い」と何度も述べてきた。その理由は、人口が減るだけなら、働く人も食べる人も同じだけ減るが、高齢化は働く人が減って、食べる人はあまり減らないことだからだ。さらに怖い理由もある。高齢者が多くなれば高齢者の票が怖い政治家が、高齢社会の怖さについて率直に語らなくなることだ。
(注)
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来人口推計(2006年12月推計)」の中位推計によれば、
2010年の高齢者比率は23.1%、それ以外の人の比率は76.9%
2030年の高齢者比率は31.8%、それ以外の人の比率は68.2%
2050年の高齢者比率は39.6%、それ以外の人の比率は60.4%
高齢者以外の人に課税して、高齢者に高齢者以外の人の半分の所得を保障するための税率は
0.5×23.1÷76.9=15.0%
0.5×31.8÷68.2=23.3%
0.5×39.6÷60.4=32.8%
すべての人に課税して、高齢者に高齢者以外の人の半分の所得を保障するための税率は
0.5×23.1÷100=11.55%
0.5×31.8÷100=15.9%
0.5×39.6÷100=19.8%
となる。
以上
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