デフレ期待の続く家計の金融資産動向

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2010年06月22日

  • 土屋 貴裕
日銀の資金循環統計によれば、09年度末の家計金融資産は、1,452.8兆円となった(速報値)。08年度末から43.8兆円の増加となったが、資金フローや価格変化のなかでは、株式・出資金(以下、株式等)の価格変化等が21.8兆円で最も大きくプラスに寄与した。次いで、投信の価格変化等と定期性預金へのフローが共に8.5兆円のプラス寄与となった。ここ数年も株式等や投信の残高変動が目立ち、家計金融資産の残高は、内外株式市場の動向次第で変動が大きくなると言えよう。

資金フローに着目すると、株式等からは資金流出が続いているように観測され、2010年1-3月期まで、4四半期連続で資金が流出している。だが、家計(個人投資家)は、株価に対して「逆バリ」的な投資スタンスにあると見られ、株価下落局面では資金が流入し、株価上昇局面では資金が流出すると考えられる。「順バリ」的な側面を持つ投信とは状況が異なる様子が窺われよう。

資金循環統計は10年1-3月期までだが、資産運用という観点から月次の家計金融資産フローを考察した。10年4月下旬以降、5月にかけての日本を含む世界的な株価下落によって、逆バリ的な投資としての国内株とETFに資金が集まっている模様である。そもそもの投資フローが相対的に小さいが、J-REITの売り越し幅も縮小している。資金流入が加速した投信は、対外債券投資が中心ながらも、海外株での運用も増えている可能性がある。

一方、金利水準の影響を受ける公社債は売り越し基調が続き、円定期預金も残高が減少している。雇用・所得環境は改善しつつも景気に遅行するため、所得面で残業代やボーナスの増加につながっても、まだ所定内給与がプラスに転じていないことが背景だろう。もう一つ考えられる可能性としては、家計のデフレ期待が強まっていることではないだろうか。

日銀の「生活意識に関するアンケート調査」から、物価期待指標を作成してみると、過去の物価動向との連動性が見られ、足もとでは、まだデフレ脱却への期待が高まっている状況とは考えにくい。デフレ脱却に向けて日銀が政府との協調姿勢を打ち出しており、超低金利環境のさらなる継続が予想されていると考えられよう。絶対的な金利水準は実質ベースでも極めて低く、それゆえに、国内の確定利付き商品を避け、海外の高金利通貨に向けた投資が増えるのだろう。

物価期待指標を株価と比較すると、物価と同様に連動性がある。物価がしばしば「景気の体温計」と言われるように、株価同様、景気変動を映じたものであることから、両者にある程度の連動性がみられるのは当然であろう。この物価期待が景気回復期待を表す側面を持つのであれば、投資マインドの一部を映じている可能性があるだろう。内外の政策や国際商品市況次第ではあるものの、デフレ脱却期待が高まらないのであれば、日本株投資についても、引き続き、逆バリ的な投資行動が想定されることになる。

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