ユーロの本質的問題

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2010年06月01日

  • 牧野 潤一
ギリシャの財政危機を契機として、世界の金融市場が動揺している。南欧諸国の国債利回りが大幅上昇し、ユーロが下落、世界的な株価やコモディティ価格の下落に繋がっている。またギリシャ危機は、ユーロ圏経済そのものが内包する矛盾も炙り出しており、欧州の構造問題にまで議論が広がっている。

危機を生み出したユーロ経済の本質的問題とは何だろうか?
今回のギリシャ危機について多くの専門家は、その根本原因を政治・財政統合の欠落に求める。金融政策は統合されているものの、財政政策はばらばらであり、各国で放漫な財政支出が危機を発生させたと指摘する。

そもそもユーロ統合は最適通貨圏という理想的なシステムを求めてスタートした。最適通貨圏とは、複数の国が相互に為替レートを固定することにより形成される通貨圏であり、相互の貿易量が大きく、労働・資本等生産要素の移動が容易であることが条件となる。
例えば、ある国の通貨が下落した時、その国の域内輸入が大きければ、為替減価により購買力は低下し生活水準が低下する。共通通貨であれば購買力の低下は起きず、域内貿易が大きければ大きいほど共通通貨のメリットは大きい。しかし、共通通貨は何らかのきっかけで国内景気が悪化した場合、為替の切り下げで問題が解決されないことを意味する。為替という価格調整が効かないため、調整圧力は数量面に集中する。雇用調整である。しかし、そこで賃金低下という価格調整が効かないならば、雇用量の調整が大きくなってしまう。雇用調整を小さくするには労働者の移動性が高いこと(域内労働移動)が必要となる。しかし実際にはそれらが短期的には難しいため、政府は財政支出を拡大させて景気を下支えせざるを得ない(財政赤字の拡大)。

すなわち、最適通貨圏が実現されるための条件は「賃金の伸縮的調整」または「雇用の移動性」となる。しかし、実際のユーロ圏の伸縮性は十分とは言い難い。ユーロ圏の賃金コスト指数は、リーマン・ショック以降の景気悪化においても低下していない。また労働移動についても、欧州域内の人口移動度(1年間に他国に移動する人数の人口比)は、0.1%程度しかなく、これは米国の2.5%(州間移動)、日本の2.1%(都道府県間移動)に比べ小さい。

すなわち、欧州危機の根源は、財政赤字にあるのではなく、そうならざるを得ない賃金・雇用の伸縮性の欠如に求められる。財政赤字は原因ではなく結果に過ぎない。したがって、各国の財政政策に厳格な縛りをかけてもあまり意味は無い。財政を縛れば景気(GDP)は一層悪化し、結局、財政赤字は不変でも、財政赤字/GDP比は上昇してしまう。

今後、ユーロが市場から信頼を取り戻すには、財政規律というよりは、より本質的な最適通貨圏の前提となる労働市場の柔軟性を高めていくことが重要である。すなわち高額失業手当の削減や雇用の流動化等の構造改革が求められる。

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